揉み毬

その椅子は見てきた 温泉の脱衣場
赤茶けた布の中では 揉み毬が電気で動き
25年も見てきた
いろんな背中を揉んできた
いい人の背中も 悪い人の背中も
だけど明日には捨てられるってさ
温泉宿の改装で
コンセントはまだ抜かないで
揉み毬グイグイグイグイグイグイグイ
最後に椅子に座ったのは
愛に疲れた男で
部屋に戻ったら女の 首を絞めようと決めてた

男がそれを やるかどうかは
その椅子には わからなくて
その椅子は ただ揉むだけ
誰の背中でも 一生懸命
いい人の背中も 悪い人の背中も
幸福な背中も 泣きじゃくる背中も
だけど明日には捨てられるってさ
温泉宿の改装で
コンセントはまだ抜かないで
揉み毬グイグイグイグイグイグイグイ
誰も望んで地獄には落ちぬ
神様の気まぐれさ
誰か背中 揉んでおくれ
揉み毬グイグイグイグイグイグイグイ

やがて男は 立ち上がって
部屋に 帰っていったよ
どうしたのかは 知らない
誰にも わかりはしないよ
いい人の背中も 悪い人の背中も
成功した人の背中も 落ちぶれた人の背中も
つるつるの背中も 傷だらけの背中も
幸福な背中も 泣きじゃくる背中も
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