カナリア諸島にて

薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて
海に向いたテラスで
ペンだけ滑らす

夏の影が砂浜を急ぎ足に横切ると
生きる事も爽やかに
視えてくるから不思議だ

カナリア・アイランド カナリア・アイランド
風も動かない

時はまるで銀紙の海の上で溶け出し
ぼくは自分が誰かも
忘れてしまうよ

防波堤の縁取りに流れてきた心は
終着の駅に似て
ふと言葉さえ失くした

カナリア・アイランド カナリア・アイランド
風も動かない

あの焦げだした夏に酔いしれ
夢中で踊る若いかがやきが懐かしい

もうあなたの表情の輪郭もうすれて
ぼくはぼくの岸辺で
生きて行くだけ……それだけ……

カナリア・アイランド カナリア・アイランド
風も動かない

カナリア・アイランド カナリア・アイランド
風も動かない
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