瞬間

その葉っぱは恋をした
水面に現れては消える1個の泡に
きらきら光ってただ消える

葉っぱが気づくと
もう消えているあの娘
あの娘の頬にキスをしたいよ
11月のある朝 葉っぱの体がみるみる赤くなった

北風がピューンと口笛を吹いたとき
葉っぱは一陣の竜巻になって
クルクルと水面に落ちた
全身を震わせ 冷たい冬の水をあっためるほどに赤い彼
陽がすっかり傾いて彼に負けないくらい空が赤くなりだしたとき

彼は想った
ああ僕は今日までこんなに奇麗な空を見たことがあっただろうか
毎日毎日池ばかり見て

この広い世界をみることをすっかり忘れていただなんて
そんな気持ちに浮かんでいた
そのとき
彼の背中に1個の想い
それは彼をそれは彼をゆっくりと深く浅くゆっくりとなぞっていく
真っ赤な世界に溺れるように 彼は目を閉じた
右の耳に不思議な優しい音が近づいたとき 彼は気がついた
あの娘だ とうとう訪れた彼のたった1つの

願いが叶うとき 大きな世界に
包まれながら
小さなあの娘に触れるとき
彼がやっとできたことといえば
もう行ってしまうあの娘のために
少しばかり体を沈めてあげることだけ

あの娘は右の耳元から
ころりとこちらに転がって 2人はそっと口づけをした
そうしてあの娘はプツンと居なくなった
沈んだ彼にお水はとっぷりのっかって
どんどん染み込んで 気がついたら水の底
大きななまずが わからないくらいゆっくりと動いている
泡は消えたよあの娘は

空に行きたがっていたよ 空って一体
ほんとは何色なんだい
ここに写る色と同じさ ここは何色なんだい 水色さ
広い空と泡の肌 破裂しそうな喜びと
同じくらいに悲しい理由は もう二度と戻らない瞬間に
全てがあって 全て終わったから 心はただ泥に浮かんで
恋の熱に季節を間違えた
蓮の花が遠くで泣いたよ
赤色と泡のような口づけ
破裂しそうな喜びと悲しみ
あなたが一番 愛すべきことはそう
もう戻らない 今のこの瞬間
この話に似たようなこと
あなたにもきっと起こるでしょう
だけどそんなときは怖がらないで 飛び込んで
この冷たい水はあなたにとって 記憶の温度計
あなたがずっと欲しがっていたこと 蓮の花が
思い出してくれる この話に似たようなことが
あなたにも多分起こるでしょうね
だからそんなときは我慢しないで
飛び込んで この冷たい水はあなたの中
のぞいて染み込んで あなたが本当に欲しがっているなら
蓮の花を 描いて
色を交ぜてよ
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