望郷の唄

まだ明け染めぬ 山河に向かい
ただひとり手を振って
別れの挨拶をした

山の端のもみの木よ
今は廃屋の峠の茶屋よ
夜明け待つ 鳥達よ 鳥達よ

もう二度と逢うことはないけれど
情あるならば 母の行末 見守って欲しい
ああ男二十歳の 門出に想う 愛惜と夢

ふるさとを捨てて 得たのは何か
この胸に訊いたとて
答えが出るはずもない

さんざめく巷の灯よ
どこへ走るのか夜汽車の汽笛よ
ものいわぬ 星達よ 星達よ

一杯の火の酒に酔い痴れて
おのれ見失い 望み忘れたこの我を嘲え
ああ三十路過ぎてから 涙で知った人生の味

冬には野辺の緑も失せる
歳月に抗えず
ものみな老いて行くのか

他国を知らぬまま
母は身罷り 御無沙汰
お詫びの便りとて 届かない 届かない

つらくても帰ろうか もう一度
今日を生きること そして明日を考えてみたい
ああつのる里ごころ 托して唄う望郷の唄
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