T字架

僕は 僕を 背負って歩いている
君の背骨の細い路地を 綱渡りのように一歩いっぽ踏みしめながら
僕は 僕を 背負って歩いている
君の下着のなかへと 息も絶え絶え潜りこむ
血を流しながら
汗を流しながら
涙を流しながら
口に溜まったインクを吐き散らしながら
それが 言葉だってことも知らずに
それが 祈りって呼ばれることも分からずに

僕は 君に 辿り着いた
君の丘の上に
僕は 僕を 突き立てる
固くなった僕を 突き立てる
月面に降り立った宇宙飛行士のように
僕の旗を 垂直に 地面へと 突き刺す
痛い 痛い 痛いのは
僕だろうか 君だろうか それとも あいつだろうか
固くなった 僕は あいつみたいだ
あいつは 君を苦しめる
あいつの見ている前で
僕は君に鞭うたれた

一、二、三十九回も鞭うたれて
茨の冠かぶせられて
僕は僕(シモベ)と書かれた看板を
首からかけられて
両手に杭打たれて
あいつに磔られた
僕はいつか 僕であることをあきらめて
あいつから放たれた
無数の光が
地面に降り注ぎ
君の夜を 白く汚した
真っかっかな夜だった
世界が生まれた夜だった

どうか三日後に 僕が君になりますように
僕があいつで なくなりますように
すべて消えて なくなりますように
生欲が
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