てんでばらばら~山羊汁の未練~

てんでばらばら
電動ミシンのうなり声が響く
路地の乾いた呪文よ
ここから先は海であり
海にひそむ民族であり
梅雨どきの
トタン壁にしがみつく
蔦の濃緑!
に眼を射られて
かがみこむほどの暑さだ!
いっそ裸足で歩いて
頭に長靴でもかぶせたらどうだ
キムさんはそう言うのであり
俺は
ひねた山羊の肋肉を頬ばりながら
盗むときの眼で
焼酎を飲むのであり
肋の中に舌を差し込むのである

音もなく
破れた窓ガラスのバスが
遠い光州の町を走り過ぎる
銃を持った青年達が
笑顔で手をふっている
昨日見たテレビの画面に
音はなく
水まじりのコーヒーを飲んでから
俺は恋人を自転車の荷台に乗せて
駅まで送った
「あなたの眼は蜘蛛みたいだわ」
いきなり悩んだ
羽子板みたいに
壁の方を向いて

追いつくか
長靴を頭にして

追いつくか
山羊汁の中の青紫蘇の葉に
追いつくか
「人民に銃を向けるな」という
横断幕のある町で
追いつけるかなあ
俺の坐っているテーブルに
処刑前の予感を!
路地から路地
サンダル作りの電動ミシンの響きに
腹をゆすられながら
キムさんと俺は
てんでばらばら
汁をすするのに
懸命になるのである
けんめいになる
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