白無地方向幕

ひとふしのメロディーが朝から頭を離れない
くちの中でくりかえし小さく歌い
どこかで聞いたと 記憶のもやの中を探し回る
たどり着けずに正午を過ぎて
ガラス戸ごしに曇りの空を眺めている

どこで聞いたのだろう この微妙な節回し
子守唄のようでもあり ラメントのようでもある

愛しあったり
愛されない苦しみにひそかに裏切りに走ったり
音もかたちもない
ふとした凪のような
自分であるのかほかの人であるのか
消え去りやすく けれど不意に戻ってくる

生れて二ヶ月の赤ん坊が
朝の小鳥のコロラチュラにじっと耳をすましている
遠い眼をして

何度でもあきらめよう
そのたびに輝くものがある

迷子よ
迷子よ
後戻りはきかない
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