花雲の乱

覚え浮かぶは初草の程 花雲を眺む
女童(めのわらは)はいつしか真乙女(まをとめ)と生(お)ひ成りにけり

思ひ兼ぬ さやぐ糸桜の下 契り交はす
拙(つたな)くて やはか 今は限りとは思はざりつ

花風吹き迷う節 初色に染みて 時じくに永らへば嬉ぶ 笑み栄ゆ
なれども夢の浮橋 胸拉(ひし)ぐ行く手
天下の乱れんことを悟り 我 心病む

父君に後(おく)れ給ひし程 女(め)は思い湿る
人商人(ひとあきびと)は汝(なれ)を引き立て 打ち頻(しき)る不祥

斬くばかり術無きものかは 涙は尽きにけり
思ひ人 我必ず追ひ来なむと信を成すべし

花風吹き迷う節 初色に染みて 時じくに永らへば嬉ぶ 笑み栄ゆ
なれども夢の浮橋 胸拉ぐ行く手 天下の乱れんことを悟り 我 心病む

駆けらば風ともなりて 浮き世立ち別る
恥ぢらひて袖で差し隠せばいと愛(うつく)し
羽根打ち交はし相逃(あひに)ぐ 弁(よ)散りかひ曇れ

「生けらば後の桜こそあれ 常しへなり」
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