蕎麦月夜

月の晦日は蕎麦を喰う 祝い事ありゃ蕎麦を喰う
裏の畑も花盛り 白い花見りゃ思い出す

石臼回して母ちゃんが 挽いたそば粉の香り立ち
心を込めて打ちます今日も

美味い蕎麦には幸せが宿っているぞと父ちゃんが
喰わせてくれた想い出は 今も忘れぬ蕎麦の味

仕事あがれば蕎麦を喰う 辛いときにも蕎麦を喰う
ちょいと一杯やるときにゃ 横丁の蕎麦屋に限るのに

旦那のいつもの口癖は 後取りいなくて困ってらぁ
粋な男の涙と汗と

長い蕎麦には人生が 見えてくるわと女将さん
涙と共にすするのは なぜか優しい蕎麦の味

白か黒かの分かれ道 明日の我が身の迷い箸
蕎麦に例えりゃそれもまた 悩むことさえ意味はなし

娘が二十歳になるころにゃ ようやくなれるか半人前
爺ちゃん婆ちゃんどこかで見てな

暮れのそばにはいい恋人を連れて来いよと電話すりゃ
女房と見上げた月の夜に 胸に染みいる蕎麦の味
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