或る恋文

拝啓、お元気ですか。
私はあなたに恋をしておりました。
あれは暑い夜のこと、あなたを引いて
歩いた夏祭りを思い出します。

細工飴を片手に少し俯いたあなたの手が
あんなに温かかったことを
なぜだか忘れられません

雨のような悲しみも太陽のような喜びも
風にのってあなたが連れてくる
それがたまらなく愛おしいのです

いつかあなたと座ったあの古い茶屋の
和菓子を覚えていますか?
雨が降ってくれたらいいのに。
あのころ私は何度そう願ったでしょう

少し大人びたあなたの手には
もう触れられなかったときに
そっとその手をひいて逃げ出せたら
いまもあなたの隣で笑えたでしょうか

頬を染めた夕の陽を蛙の歌う畦道を
今もまだあなたは好きだろうか
それすらもう聞けないから

朝は太陽になって夜は満月になって
風のようなあなたを照らし出す
そんな夢で眠りに就くのです
いつかあなたの手を握れる日まで。

稲穂の揺れるこの景色を
あなたもどこかで見ていますか
遠く同じ空の下で
今日もあなたを愛しています。
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