軍国舞扇

可愛い二八の 花かんざしに
ちらり咲かした 心意気
見やれ今宵も 賀茂川あたり
皇国(すめら)乙女の 舞扇

「何時どしたやろか、あてらもお国のために
立派な仕事せんとあかんなア
いうていやったことがおましたなア。
そういうてからもう二年たったんどっせ。
一生懸命やったわ。
そやけどそれが、ようやっと実い結んで、
こないな嬉しいことあらへんわ。
あんたの心 あての心、
そして祇園中の心
が明日は日本の空へ向いて
飛び立つのどっせ。」

花の振りそで だらりの帯も
かたちばかりの 浮き調子
勤めはなれりゃ 銃後のまもり
綾(あや)にかけます 紅だすき

「飛んだえ、飛んだえ、
あんた泣いてはんの、おんなしやわ。
あてかて、あてかて、
いゝえ祇園の人かて
みんなおんなし気持やわ。
あてらの真心が天に通じたんどすもの、
泣いてもかまへんわ、
泣いてもかまへんわ。」

橋の擬球(ぎぼし)に 朝風受けて
待てばくるくる 銀の鳥
ほんに嬉しや 祇園の空を
晴れてひとさし 舞う翼
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