港にて

空高く、空高く
翼広げて
ゆっくりと弧を描いた
対(つがい)のゆりかもめ
いつまでも、いつまでも
それを仰いで
ふたりから遠去かる
愛を見取ろうとしている
ずっと前から、知っていたから
その人の顔も名前も
今更のように言葉を
探しはしないで
もうさよならに驚く程
熱くはない
あなたの港には
最期までなれなかったけれど

彼女には今日の事
知らせて来たの
それともこの近くの
何処かで待っているの

いくつもの、いくつもの
季節をすべて
空に帰し、海に沈め
私は風を待つから
赤い煉瓦の古い倉庫と
錆びついた引き込み線と
静かに朽ちて行く愛へ
船は帰れない
もう新しい海へ逸る
その心を
小さな港には
引き留める事は出来ない
もうさよならに驚く程
若くはない
あなたの港には
最期までなれなかったけれど

空高く、空高く
翼広げて
ゆっくりと弧を描いた
対(つがい)のゆりかもめ
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