川口松太郎原作「明治一代女」より お梅

戻れない… 戻らない…
時の流れに 棹させば
女の時間は 止まるでしょうか
浪に千鳥の 浜町河岸に
誰が 誰が架けたか
なみだの橋
お梅運命の… 恋に泣く

「巳之さん すまない 堪忍しておくれ…
太夫とはどうしても別れられなかった…
でも 初手から巳之さんを騙すつもりはなかった
太夫の襲名披露が終わったら
巳之さんの所に戻るつもりだった…
所詮この世界は一幕物の夢芝居
これで梅のひとり芝居も終わったのさ…」

なぜ泣くの… なぜ泣かす…
道はふたすじ あるけれど
心も迷いは もうありません
義理の川風 人情の夜風
乗せて 乗せて流れる
もやい舟
お梅しぐれる… ほつれ髪

「唐紅のおんなの性が 二つの枝に狂い咲き…
あぁー梅はもう思い直すことは何もない
身を清め 髪を結び 紅 白粉の旅支度…
せめて せめて こんな女がいたことを
覚えていて下さいね…
楽しかった太夫との思い出を心に秘めて
梅はあの世に参ります
あぁー あの人の舞台の幕が開く…」

夢ですが… 夢なのね…
浮かれた浜町 三味の音に
三日月眉毛の 柳が曇る
明治一代 悲しく燃えた
恋の 恋の火玉は
何処へやら
お梅泣かせ… 隅田川

…津の国屋ぁー…
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