失せ物の街

もうなにも 喋らない思い出
引き出しの 奥で眠ってる
捨てられない 理由も忘れられて
誰にも読めない文字のように

お前は何を見たんだい
ここに捕らわれる前に
誰かがお前を送り出した
役目は果たしたのかい?
もういいのかい?

おじぃさんのくれた 万年筆を使いたくなった
忘れてた漢字思い出しながら“拝啓”と
“お元気ですか 僕はなんとか元気です”って
書いたらなぜかほんとに少しだけど
元気になった

“大吉”と 書かれたおみくじ
“失せ物出ずる”って自分のことだね
アルバムにしてもらえなかった写真や
飾ってもらえなかった写真

いつか気づいてもらえる
黙ってその日を待つ
街中の家 部屋 引き出しに
時の詰まった思い出が
あるんだろう

おばぁさんと写った 額縁に入った記念写真
立派な場所に飾ってもらえる夢の跡
“ごめんね でも あなたのおかげで元気です”って
とうにいないおばぁさんに微笑んで
元気になった

失せ物たちの寝息が
聞こえる夜もある

おじぃさんのくれた 万年筆を使いたくなった
忘れてた漢字思い出しながら“拝啓”と
“お元気ですか 僕はなんとか元気です”って
書いたらなぜかほんとに少しだけど
元気になった
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