マリの回想

今日も洗濯をしながら聴くのはトムヨークの声。
何にも考えなくて済むこの時間が好き。

あの頃は私の全ては音楽だったし、ピアノが私そのものだった。
歌うことも大好きだった。

でも、いつからか私は音楽になれないことに気付き始めた。
魔法が解けてしまった と、そう思った。
総司と結婚したのもちょうどその頃。私は幸せだった。

眠れない夜、総司の枕元に転がっている鞠を触りながら
何となくメロディーを口ずさんだ。
「私は無敵だ。」
そう思った。何故だかはわかってる。
夜に魔法をかけられたから。

私は鞠をそっと元の枕元に戻した。
私は乱暴には扱わないからね。
誰かが「ふふっ」と笑った気がした。
×