切られ与三

「御新造さんえ おかみさんえ お富さんえ…
いやさぁー…お富 久しぶりだなぁー…」

しがねえ恋路の 木更津追われ
めぐる月日も 三年(みとせ)越し
三十四ヶ所に 貰った疵(きず)が
俺の綽名(あだな)よ 俺の綽名よ 切られ与三
惚れちゃいけねえ 他人(ひと)の花
エー…他人の花

「しがねえ恋の情けが仇…
命の綱の切れたのを どう取り留めてか木更津から
めぐる月日も三年越し…
江戸の親には勘当うけ よんどころなく鎌倉の…
谷七郷(やつしちごう)は食い詰めても面(つら)へ受けたる看板の
疵がもっけの幸いに
切られの与三と異名を取り 押借(おしか)り強請(ゆず)りも習おうより
慣れた時代の源氏店(げんじだな)…」

忘れてくれたか 与三郎だよと
名乗りゃ目が泣く 洗い髪
急(せ)くな騒ぐな 蝙蝠安(こうもりやす)よ
たかが一分じゃ たかが一分じゃ 草鞋銭(わらじせん)
恋の始末にゃ 安すぎる
エー…安すぎる

「死んだと思った お富たぁー お釈迦さまでも気がつくめぇー
よくまぁー お主しぁー 達者でいたなぁー…」

港に身を投げ 死んだと聞いて
唱えましたぜ 念仏を
いまのお富は 堅気と言うが
色香(いろ)で磨いた 色香で磨いた 源氏店
なんで浮世を もてあそぶ
エー…もてあそぶ
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