星のとなりの空け者 ~彦星~

今年も雨が降った 結局
この夜は晴れたことがない
川は荒れ生命を拒む
わかっていた きっとずっと
来年も再来年も
あの人は雨を降らせる

唯一この川を渡れるとされる
カッパとかいう緑の妖怪
要はそいつと同じくらいの
筋力と肺活量を身につければいいんだろ?

今じゃ給料の6割は筋肉費
見て!華厳の滝のような俺の僧帽筋!
天の川を渡るってサイエンス・フィクション?
筋肉を磨くより大事なことある!?

鬼が住む山に籠り修行
俗世などとうに捨てた
大胸筋の神様に嫁ぐ
木々を引き抜き
岩をくるぶしで撃砕していると
怪しげな小屋を見つける

この険しい山に似つかわしくない
異端なファッションの集団が
中でどんな悪巧みをしてるのだ!
ドラマチックな筋肉で阻止してやる!

大学生が楽しげにパソコン作ってる
鬼もこの景色見たら失笑するぞ
ここで組み立てるメリットって何だよ!?
下山というプロセスを考慮しろよ!

しかも全員で7人もいるじゃねーか!
みんなでできる遊びをしなさい!
でも7って数字なんか引っかかるな?
7月7日って何かあったっけ?

七夕の夜 天の川を見に行く
こんなに鍛えた身体も竦む激流
会えない辛さに 目を逸らしていた
何かに夢中になって誤魔化していた
すぐにはやみそうもない雨に
濡れた瞳がカッパを見つけた

これで…!

俺の力を試せる!俺の方が強い!
俺の筋肉の方が総合的にすごい!
思い切り殴りかかってみたけど
容易く受け止められて

「ピアノの発表会感覚みたいな
半端な覚悟で来るんじゃねぇよ!」
速やかにボコボコにされた挙句
二つ折りにされてどこかに運ばれた

目を覚ますと川の向こう
目の前には初老の女性
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