秋:夕暮れ

ほら・どう思う・あの空を 母が古い映画のヒロインみたい
夕焼けを前にして椅子に座ってさ 私の・そばで腕組みしてる
母にはあの空・見えるだろうか 弱った視力が少し気に掛かる
長い道のりを歩いた母は 時に・ああして昔を探してる
生きる事に疲れた・とか 足でまといになりたくない・とか
そんな思いは持って・欲しくない
生きてきて良かった・とか それなりに幸せだよ・とか
そう思って・欲しい
ほら・見てご覧・夕陽が動く オレンジみたいな顔して こっちを見てるよ

母が・私を見る・空を指さす お前は飛行機・乗った事があるかいって・さ
私は・そんなモノはいらない もうすぐ・あそこに行けると
哀しいジョークを言う
突然・母が口にする夕餉の仕度 買い物に行くのを忘れた・と言う
お前は今夜・何が食べたいかと あり合わせでいいよ・私は答える
そうじゃないでしょう・とか 何回言ったら分かるの・とか
こんな時には言わない方が・いい
母が母であろうとする・事 柄の間であっても・いい
それは・とても大事な・事
もう・陽が沈む・家の中に戻りましょう 山積みの洗濯物でも畳んでみます・か

生きる事に疲れた・とか 邪魔者にはなりたくない・とか
そんな思いは持って欲しくない
あんたと暮らして良かった・とか 親ってやっぱりいいもんだよ・とか
そう・思わせてくれ
ほら・見てご覧・もう日が暮れた 部屋の窓から町灯り・見える・はず
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