霧積の宿

落葉松(からまつ)の 林の中を
風が静かに 過ぎて行く
恥らいながら うち明けた
女心の 胸のうち
愁(うれい)を秘めた 夕焼けが
小窓を染める 霧積(きりつみ)の宿

吐く息も 重なる峠
手と手引いたり 引かれたり
一つに想い 溶け合って
心の糸を ふるわせた
あの日の遠い ときめきに
やさしく暮れる 霧積の宿

谷川の 果てない流れ
山の水車も はずんでた
我がまま言って 困らせた
愛の証(あか)しの 恋心
帰らぬ人の 面影が
湯の香に揺れる 霧積の宿
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