親父と息子

おい太郎 さあ出かけるぞ、ほら なにをしてんだ。
あー、今頃トイレに入るバカいるか。
もう学校……ほんとにしょうがないなあ。はやくしなさい。
あっ、おとうさんも行きたくなってきたよ。

親がなくても 子は育つ
育つ子供が いじらしい
男手だけじゃ たりないものが
きっとあるだろ 私にも
今日も心で わびている

あの子の母親と別れてから、もう五年になりますか。
いわゆる性格の違うという奴でした。まあ今なら別れないで
すんだことかも知れません。若気のいたりという奴でしょう。
それから男手一つで息子を育てて来ました。
父親と母親。両方の役をやって来たつもりですが、
どだい無理なことです。
やっぱり母親というものは偉大なものなんですねえ………。

甘えたいだろ 母親に
泣いて抱かれて みたいだろう
悲しい時も 涙をこらえ
つくり笑いで 笑ってる
そんな姿が 胸をうつ

「おとうさん、たまには遊んで来てもいいぞ」
ある日息子がそんなことを言いました。
「遊ぶってなんだ?」
「ほら きれいな女の人がいるところなんか、おとうさんも
まだ若いんだから行きたいだろう?」
「ハハハ、馬鹿を言っちゃいけない。それよりお前、おかあさんに
逢いたくないか? 逢いたかったら、いつでも逢いに行って
いいんだぞ」
「ん? おかあさん? ぼくはちっとも逢いたくネェや」
息子はそう言って外に遊びに行ってしまいました。
本当は今すぐにでも逢いたいに違いありません。
でも私に対する思いやりから 彼は逢いたくないと
言ったのでしょう。

男同志で これからも
生きていこうよ しっかりと
ともった灯り 二人の窓に
明日はかならずやって来る
そうさ朝日は また昇る

私が毎朝つくる目玉焼。ほんとうはあきているんでしょうが、
息子はおいしいよと言ってよく食べてくれます。
お前も早く大きくなってくれ
そして一緒に酒を飲もうじゃないか
男同志の酒だ
そんな日がいつか来ることを、私は今から、
夢見ているのです。……………
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