東京運河

あの町は捨てたから 帰らない
呼吸はしているが 死んでもいると
もののはずみで 荒らぶれて
躰ひとつで 飛びだした
澱んで暗い 東京運河
何故だかかすめる 家族の顔が
こんな雨の日は

恋人は拾えるさ いくらでも
みんな都会の 深海魚たち
心にもない 嘘ついて
幼なじみに 出す手紙
流れて寒い 東京運河
テレビを相手に 煤けた部屋で
独り酒を飲む

何気なく手を眺め ふと思う
まるでおやじと おんなじ手だと
仕事おわって 陽にかざす
油まみれの 男の手
西日に染まる 東京運河
お祭りさわぎと 無縁だけれど
此処で頑張れるよ
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