父ちゃんの鼻唄

父ちゃんの鼻歌 おきまりの曲
風呂に入るとき、階段を登るとき
いつもいつも歌ってた
あの下手くそな歌

友達が泊まりに来る度に 父ちゃんの鼻歌を聞いて大笑い
次の日学校でみんなにバラし 僕はクラスの笑い者

父ちゃんの鼻歌 へたくそな歌

無口でのろまで、お洒落もしない キャッチボールもしたことないし
ドライブどころか車もない 父親らしいところなんて見たことない

父ちゃんの誕生日に作ったケーキを うっかり落っことしてしまった僕に
「そんなもの食えん」と冷たく言って 僕は思わず泣き出した

その後父ちゃんは不器用に
「ごめんな」とひとこと言った

上京してしばらく時が経って 久しぶりに田舎に帰ってきたら
すっかり老け込んでた父ちゃん 一日中テレビを見てた

こんな父ちゃんみたいにはならないと誓った
くすぶって歳をとるなんてまっぴらだ
だけど風呂場からは相変わらず あの歌が聞こえてきた

父ちゃんの鼻歌 へたくそな歌

でもようやく分かってきた
母ちゃんはいつも心配ばかりするけど
父ちゃんはいつも黙って うなずいて
まるで山のようにそびえてた

何ひとつ教えてもらってない 何ひとつ言われたこともない
でも本当はいつも僕等を
見守っていてくれたのかもしれない

みんなであの歌を歌って送ろうって事になったんよ
あんだけ馬鹿にした あの唄を
わしは初めて自分で歌うた

そうしたら急に涙が溢れてきた
子供みたいに大声で泣いた
まるでそこに父ちゃんがいるように
いつまでも歌が響いた

父ちゃんの鼻歌

へたくそな歌
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