母の便り

(セリフ)
「辿々しくは候も、墨をすり、
筆を噛み、恥も外聞も考えず、憶えしい
ろはの仮名書にて、老いし身のただひと
つ、今生にての願いを込め……」

暗い夜業の 灯の蔭に
そなた案じて 筆とり候
秋の祭りの 太鼓の音も
一人わび住む 母なれば
なまじなまじ なまじ白髪の
ますのみに候

(セリフ)
「いつまでもなんで子供と思う
のかと笑われてもその子供をこそ忘れ
られぬが母にて候」

結ぶ夜毎の 夢さえも
遥か都の 空にて候
よるべなき身に さぞやの苦労
離ればなれの 悲しさは
思い思い 思い届かず
もどかしく候

(セリフ)
「雨の朝、月の夜、縁寺の鐘を
聞くたびにどうぞお守り下さいとご先
祖さまにお願いしては泣くばかり。」

老いの繰り言 たどたどと
便り書く手も 凍えて候
飾る錦は 何ほしかろう
親子二人で 水入らず
暮す暮す 暮すのぞみに
すがり居り候
×