瞼の母

親はあっても 顔さえ知らず
表通りを はずれ笠
どこに
どこにいるのか おっかさん おっかさん
瞼あわせて 今日も呼ぶ

「おかみさんそれじゃあ番場宿の忠太郎と云う
者に憶えはねえとおっしゃるんでござんすか」

永い歳月(としつき) 別れて住めば
遠くなるのか 気持まで
俺は
俺は馬鹿だよ おっかさん おっかさん
なまじ逢わなきゃ 泣くまいに

「考えてみりゃあ俺も馬鹿よ
骨をおって夢を消してしまった…」

西へ飛ぼうが 東へ行こうが
とめてくれるな 花すすき
これで
これでいいのさ おっかさん おっかさん
瞼とじれば また逢える
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