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第97回 フジファブリック「若者のすべて」
 今月は、惜しくも若くして急逝したフジファブリックの志村正彦が残した名作、「若者のすべて」を取り上げる。夏の終わりの“喪失感”を歌った作品は数多いが、この歌は、実に優れたものとして多くの聴き手を魅了し、今も魅了し続けている。

夏の終わりの情景を描いた作品であり、主人公が見上げるのは、その夏、最後の花火である。花火というのは二つの要素から成っている。一瞬の閃光と、瞼の残像だ。さらに風の向きによっては、火薬の匂いなど嗅覚を刺激する要素も手伝って、深く記憶に刻まれる。

主人公は、今年最後の花火が特別なものになることを予感する。最後の花火に[今年もなった]というのは、それが恒例であることを伝えるが、だがしかし、何年後にも[思い出してしまう]と、今年は特別なんだということを示している。おそらくなんかの人生の岐路に差しかかっているからで、心の葛藤も生まれるのだ。

タイトルと内容との関係

 ところでこの歌のタイトルだが、1994年に大ヒットしたテレビ・ドラマに同名のものがあり、まったく関係なくはないのだろう。また、本作が収録されたアルバムが『TEENAGER』であることとも、繋がりを感じさせる。

ただ、そもそもタイトルのつけ方には歌詞内容を集約・収斂する言葉を選りすぐったものがある一方、歌の印象を狭めず、イメージを解放するような言葉をあえて充てたものもあるわけで、この場合、どちらかというと後者かもしれない。

しかし、歌詞全体を把握した上で再びタイトルを眺めてみると、味わい深いものを感じさせる。実はこの“若者”とは、主人公を示す単数と受け取れる。さらに“すべて”とはいえど、この夏、最後の花火が終わるその僅かな時間帯だけを指す、という解釈も可能なのだ。

“若者のすべて”という言葉自体は行政が発表した何かの統計でもあるかのように容積がデカいけど、実際は小箱に収まるくらいの感情だったりするあたりのギャップこそが、このタイトルを印象的なものにしている。 
ジャケット画像です。
「若者のすべて」
2007年11月7日発売
EMIミュージック・ジャパン
歌詞を見る。
フジファブリック
2000年、志村正彦を中心に結成。2009年、志村が急逝し、2011年夏より山内総一郎(Vo/Gt.)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(Ba)の新体制で本格始動。叙情性と普遍性と変態性が見事に一体化した、シーン屈指の個性派ロックバンド。「銀河」、「茜色の夕日」、「若者のすべて」などの代表曲を送り出してきた。昨年2019年にデビュー15周年を迎え、1月には10枚目となる記念すべきアルバム『F』をリリース。8月には初のPLAYLIST ALBUM「FAB LIST」を2枚同時リリースし、10月には“フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE at 大阪城ホール2019「IN MY TOWN」”を大成功にて終了した。
この歌のツイート(つぶやき)風のサビは鉄板だ

 「若者のすべて」という歌は、鮮やかな情景描写から始まって、徐々に主人公の心の内側へと光があたっていく構成なのだが、通常、歌で一番解放感が届いてくるはずのサビのところが内省的というか、ツイート(つぶやき)風であるところが大きな特色だろう。具体的には[ないかな ないよな]、さらにそのあと[きっとね いないよな]のあたりだ。

それがどういう効果を生むのか? ドーンと迫り来るようで、来ない…、のだ。そりゃそうだ。ツイート(つぶやき)は、どんな大音量にしようと「叫び」には変換されないからである。それが他の楽曲にはない、この歌ならでは感動を呼ぶ。 その感動とはどういう質のものかというと、ドーンと来ないかわり、聴き手はここで、スッポリ主人公の心の内側に飛び込んでしまったような気分になる。“かな”“よな”の語尾を、ともに噛みしめ、彼の心の葛藤を、追体験しているのだ。結果、J-POPの数ある名作のなかでも“身につまされる”度合いにといて、相当に上位クラスの作品となった。

伝えたい相手も、同じ空を見上げているハズなのに

 さきほどの[ないかな ないよな][きっとね いないよな]というのは、あえて前後を省略し、聴き手に様々な想像をめぐらせる効果もある。そして、歌はエンディングで静かなクライマックスを迎える。さっきから眺めていた夜空の花火は、いよいよ[最後の最後]を迎えようとしている。主人公は、決断の時を迎える。

普通に考えるならば、それは相手に想いを伝える、ということ。いや、すでに相手とは想いが通じ合っていて、でもいったんこじれて、越えなければいけないことを話しあう、ということかもしれない。

歌詞のテクニックとして非常に上手だと思うのは、このあたりに敢えて、[まぶた閉じて浮かべているよ]というベタでストレートな表現を出していることだ。そこには花火の残像と、相手の顔とが交差して浮かんでいる。花火が薄れて相手の顔が濃く浮かび上がるようで、でも、心の葛藤が靄(もや)のようになり、その切り換わりをちょっとだけ邪魔する。

細かいことで書くなら、冒頭にいきなり出てくる[真夏のピーク]という表現がいい。そもそも夏のピークが“真夏”なわけだが、さらにそのピークへと感覚を研ぎ澄ましている。[天気予報士]というのも好きだ。「正しくは気象予報士じゃないの?」とか突っ込み入れてもいいけど、これは語呂もあってのことだろう。でも、“気象”より“天気”のほうが、なんかより生活に身近な気がする。

個人的に一番好きなのは[街灯の明かり]がまた[一つ点いて]という表現。日が暮れて、光センサーが反応し、ひとつふたつと街灯が点いていく際、そこには多少のタイムラグが生じる。それがいかにも夕暮れならではの風景であり、そのあたりを細かく観察していたからこそ、この表現も生まれたのだろう。
INFORMATION

配信限定楽曲『光あれ
2020年6月3日配信

ジャケット画像です。
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