第94回 DREAMS COME TRUE「未来予想図II」
photo_01です。 1989年11月22日発売
 カラオケを楽しむのもしばらく我慢して、この難局を乗り切りましょう。でも、カラオケ・ボックスに行かなくても、ふと口ずさめばココロが↑になる曲は多い。例えばこの「未来予想図II」。ジャンルとしてはラブ・ソングではあるけれど(また、女性が歌うのに適しているのは言うまでもないけど)、未来というものの戸惑いや迷い、疑いを排し、まっすぐ前をみつめるこの歌の姿勢は、こんな時期だからこそ、大切なものとして響くのだ。

多くの人が知るところだろうが、この歌は「II」が先に出て(1989年の『LOVE GOES ON…』収録曲)、その後“Ⅰ”にあたる「未来予想図」が届けられた(1991年の『MILLION KISSES』。さらに2007年には「ア・イ・シ・テ・ルのサイン ~わたしたちの未来予想図~」も)。

僕はこの作品の初出の頃を覚えているが、“II”という但し書きが妙に印象に残った。しかし世の中には順番どおりじゃない発表の仕方もあり、例えば『スターウォーズ』の“エピソード”などそうだろう。まぁ、じきに“II”にも目が馴染み、なんの抵抗もなくなったわけだが…。

余分なものがない、要点をしぼった描写

 「未来予想図II」の歌詞をみてみると、現在の自分たちから始まり、3年前の自分たちの姿が過り、再び現在、さらに未来へと想いを馳せ、終わっている。現在のふたりはサンルーフのついた車に乗っている。それが3年前は、バイクに相乗りしてたことがわかる。

この歌に登場するのは、そのバイクに乗る際のヘルメット、さらに、当時を懐かしむために開くアルバムであり、他はない。つまり、車、バイク、ヘルメット、アルバム。それ以外は出てこない。具体的な風景描写などもなく、また、とりたてて心象描写もない。

[あなたとだから][かなえられてく]

 このふたつの言葉が絶対的に響く。繰り返すが、戸惑いや迷い、疑い、といったものは、1ミリも入り込まないのがこの歌だ。

普通、物語にメリハリを加えるテクニックとして、“時には不安に…”みたいなことも混ぜ込むものだが、まったくない。森羅万象すべてのものを敵に回したとしても、[あなたとだから]という、この条件で総てを跳ね返してしまう。それがこの作品の特色だ。だからこの“予想図”は、透き通って見晴らしがいい。

あまりにも有名なブレーキランプのサイン

 [ブレーキランプ 5回点滅]という、このフレーズはとてつもなく有名である。歌を聴けば、バイクの頃はブレーキランプじゃなく、ヘルメットをコツ・コツ・コツ・コツ・コツと[5回ぶつけてた]とある。それが車利用となり変更されたものの、同じ習わしが続いていたわけだ。

実はこのサイン自体に関しては、あまり重要じゃない。なぜならこれは、二人に分かりさえすればいいだけのことだからだ。もしこれが秘密警察の特別任務の伝達なら、他に読み取られないように、ランプは複雑な点滅を繰り返しただろう。このサインそのものは、二人の愛が溢れる微笑ましいものとして受け取っておこう。それよりも、こんなことを考えてみた。

現在の二人は、男性のほうが女性を家まで送り、帰り際、ランプの点滅で愛を深め(確かめ)ている。もちろんこれは、ハンドルを握る男性から送られたサインである。ティーンの頃の二人はどうだったのか。ヘルメットをコツ・コツ・コツ・コツ・コツの場合、どうか?

バイクのハンドルを握り、前に乗っていたのは男性だろう。普通、そう考える。で、もちろん彼が主体となり、頭を後ろにそらしてコツ・コツするのも可能だが、疾走するバイクの上では、女性からアクションを起こすほうが容易だろう。男性は運転に集中する必要もあるわけだし。

ということは、バイクに乗っていた十代の頃に関しては、女性のほうから率先して、ア・イ・シ・テ・ルのサインを送っていたということだ。それが今は、男性のほうからサインを送っているわけである……、と、あくまでこう仮定してみるならば、この男女の愛が、どのように育まれたのか、なんとなく想像できないだろうか。歌にはいっさい、そのあたりの経緯は描写されてないわけだが…。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

ついつい塞ぎ込みがちになってしまう今日この頃ではあるのだが、今はともかく、徒に政治のリ-ダ-達をSNSで皮肉ったりせず、コロナ・ウィルスの猛威が収束し終息するのを待つばかりだ。最近買った本でいうと『十二月の十日』(ジョ-ジ・ソ-ンダ-ズ)、『息吹』(テッド・チャン)、『くたばれインタ-ネット』(ジャレット・コベック)、『サンセット・パ-ク』(ポ-ル・オ-スタ-)、などなど。 気になっているのが『ポール・マッカートニー作曲術』(野口義修)です。Phishの新作『Sigma Oasis』のなかの「A Life Beyond The Dream」という曲に感激した。