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第89回 Official髭男dism「宿命」
 ロック・スピリットという言葉がある。その一方で、ポップ・センスという言葉もある。このふたつから伝わるのは、ロックが精神性を大切にするのに対し、ポップは指向性や応用力が重要だということ。でも、ここ最近メキメキと実力を発揮しつつあるOfficial髭男dismに贈りたいのは、このふたつを合わせた言葉、そう、「ポップ・スピリット」だ。

彼らの場合、ポップなものを目指す上での気力・体力が、ここ最近の他グループから頭ひとつ抜け出ている気がする。バランスのとれた人達だ。作曲、編曲、演奏、さらに全体の成否を大きく左右する歌唱において、欠点がみつからない。よく高校野球のチーム紹介などで、「攻撃力」「守備力」「チームワーク」とかって、四項目ぐらいをグラフにして比較したりするけれど、Official髭男dismが示すのは、整った広い面積の四角形である。

え? 高校野球? ということで、ここからは、過ぎ去りし今年の夏の『熱闘甲子園』テーマ曲「宿命」の歌詞について書いていく(ちょっと強引な“転調”で繋げてしまい、スミマセン(笑))。

まずこの曲なのだが、けっこう“大それたタイトル”である。宿命とは、けして逃れられないものなのだ。いったいこの言葉から、どう展開していくんだよー、と、ちょっと心配になったくらいだ。でもご安心を…。

“やつ”という接尾語による、言葉との程良い距離感

 作詞・作曲を担当する藤原聡の筆致に注目してみよう。さっき“大それたタイトル”と書いたが、やはりそのあたり、ちゃんと考慮されている。この言葉との、程良い距離感が保たれているのだ。実際に歌われるのは[宿命]ではなくて、[宿命ってやつ]という表現なのだ。同じく[生き甲斐]に関しても、[生き甲斐ってやつ]になっている。
ジャケット画像です。
「宿命」
2019年7月31日発売
ポニーキャニオン
歌詞を見る。
Official髭男dism
藤原聡(Vo.&Pf.)、小笹大輔(Gt.)、楢崎誠(Ba.&Sax.)、松浦匡希(Dr.)による山陰発、4人組ピアノPOPバンド。2012年6月7日結成、島根大学と松江高専の卒業生で結成されており、愛称は「ヒゲダン」。このバンド名には髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けて行きたいという意思が込められている。2015年4月1stミニアルバム『ラブとピースは君の中』をリリースし、インディーズデビュー。2018年4月に『エスカパレード』でメジャーデビューを果たす。ブラックミュージックをルーツにJ-POP新時代の旗手を目指す新しい才能である。
言葉というのは不思議なもので、本質的で大切なものほど気づけば“クサい”と言われがちだ。

 そもそも“クサい”とは、人々が言葉の重さを受け止めきれなくなった際、苦し紛れに取りがちな反応のことでもあり、その言葉自体が本質的で大切なものであることに変わりはない。なので、使うべき時にはその言葉以外ないわけである。

しかしそのまま使うと、どうしても“クサい”になってしまう。そんな時の巧みなアイデアとして、この歌では“やつ”という接尾語を活かしている。そのお陰で我々は、「宿命」や「生き甲斐」という言葉を、まっさらに、素直に、受け止められるのだ。

J-POPの新たな潮流を目指して欲しい

 さらに注目すべきは、[「大丈夫」や「頑張れ」って歌詞]に[苛立って]のところ。なぜ[苛立って]しまうのかというと、他人の励ましが逆効果となり、鬱陶しく感じるからだろう。

よく言われるのは、大丈夫なのに「大丈夫?」って訊かれたり、頑張ってるのに「頑張れ!」って言われた時のやり場のなさだ。そういう時は、「もぉ~、ひとりにしておいて!」と叫びたくもなる。

そんな一般の感情を扱うと同時に、この部分は“次なるJ-POPの歴史は僕らが背負っていくぞ”という爽やかな宣言とも受け取れる。かつての“励ましソング”をそのまま踏襲するだけじゃ、新時代の励ましにはならないことを、Official髭男dismのメンバーは知っているのだろう。もちろんこの件に関しては、これからも彼らは歌作りにおいて、トライを続けていってくれるのだろう。

もうひとつ、書かせて欲しい。いま取り上げたフレーズの手前に、主人公の両耳のイヤフォンに[沈黙が続いた]という描写があるのだ。無音のイヤフォンを登場させるというのは、実に新鮮だ。無があるから有もあるわけで、この対比を持ち込むことで、改めて音楽が鳴り響くことの大切さ、素晴らしさも伝わる。この歌の冒頭には[歌うメロディ][振り向いた未来]があったのに、ここでは[遠ざかってく未来]に変化してしまっている。でも、再び音楽は鳴り始める。

最後に、この歌が『熱闘甲子園』を意識して書かれたであろう部分に関して、付記しておく。まず[バッテリー]。これは主人公のDAPの電源のことでありつつ、ピッチャーとキャッチャーのバッテリーをも彷彿させる。[群青の空]というやや古風な表現は、勝者が試合後に歌う校歌に出てきそうな言葉である。[僕らの背番号]という表現は、選手達を直接表わすようでいて、巧みな比喩になっている。

そして何より全体の曲調が、合唱曲・合奏曲としても通用する雰囲気なのも、甲子園という場所柄が、視野に入ってのことだろう。
INFORMATION

Major 1st Album『Traveler』
2019年10月9日発売
初回限定盤
(CD +Live Blu-ray盤/CD +Live DVD盤)
PCCA-4820~21 ¥5,000(税抜)
通常盤(CD Only)
PCCA-4822 ¥2,800(税抜)

ジャケット画像です。
<収録曲>
11.052519
アマゾン画像です。
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