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第77回 あいみょん「君はロックを聴かない」
 それは2月16日のMステに、あいみょんが初出演した時のことだった。曲は「君はロックを聴かない」。彼女が歌い終わったあと、司会のタモリさんが映された。“おっ、やるな”。サングラス越しに、そんな表情に思えた。タモリさんは音楽マニアでもあるし、いつでもこんな表情をするわけではないだろう。

「君はロックを聴かない」を聴いたとき、ふと思い浮かんだのが神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」という歌だった。似ているわけじゃないけど、音楽を切実なものと感じてる主人公が登場する部分では“近い歌”でもあるだろう。

特別なことは起こらない、ラブソング未満のラブソング

 「君はロックを聴かない」は、男の子が女の子にドーナツ盤(レコードのシングル盤のこと)でお気に入りのロックを聴かせてあげる歌だ。そしたら彼女が立ち上がり、一緒に踊った、とか、そのあと二人で冬の浜辺を歩いた、とか、そういう展開は一切ない。聴かせただけといえば、まさにそれだけの歌である。

[真面目に針を落とす]という表現が出てくる。最近はアナログ流行りだし、若い方のなかにもレコード・プレイヤーを扱ったことがあるヒトも居るだろうが、アレはそもそも真面目にやらないと、針が上手にレコードの溝に乗らない。さらにこの場合、気になる女の子に聴かせてあげるんだし、いつもより慎重だったことが想像できる。

[フツフツと鳴り出す]の“ふつふつ”は、お湯が沸くときなどに使われる形容だが、音楽がイントロから立ち上がり、エネルギーを発散し始めることを指している。それと同時に、このレコードが何度も愛聴されたもので、プチプチとスクラッチ・ノイズも再生されてしまう状態を表しているとも受け取れる。

で、ここからが肝心だが、タイトルにもある通り、「君はロックを聴かない」かもしれないのに、男の子は女の子に聴かせようとする。気に入ってくれるかどうかの自信はない。歌詞の前半では、聴かないと[思いながら]とか[思うけど]という表現を使っている。さらに後半では、ロックを[聴かないこと知ってるけど]と、もはや断定調に変わる。

ドーナツ盤だから、1曲のみで終わる。その間、時間にして数分間のストーリーである。結局、相手の彼女がどう反応してくれたのかは、最後まで不明だ。繰り返すが、ただそれだけといえば、それだけの歌である。
ジャケット画像です。
「君はロックを聴かない」
2017年8月2日発売
ワーナーミュージック・ジャパン
歌詞を見る。
あいみょん
1995年生まれ。兵庫県西宮市出身のシンガー・ソングライター。かつて歌手を夢見ていた祖母や、音響関係の仕事に就いている父親の影響で幼少の頃より音楽に触れて育ち、中学の頃からソングライティングを始める。2015年3月にタワレコ限定シングル「貴方解剖純愛歌~死ね~」でインディーズデビュー。2016年11月、ワーナーミュージック・ジャパン内レーベル unBORDEよりシングル「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。2018年には11月14日に発売となる6thシングル「今夜このまま」がドラマ『獣になれない私たち』主題歌に抜擢!

“ロックなんか”と繰り返されるうち、いつしか身につまされ、夢中になる歌

 それだけなのだが、心に残る歌なのだ。歌詞に重要なポイントがある。タイトルは「君はロックを聴かない」だけど、歌詞では[ロックなんか聴かない]と表現しているのである。この“なんか”が、実に胸に刺さる。様々な想いが、胸の奥へと広がっていく。

ロックを聴くヒトと聴かないヒトでは、何が違うのだろうか。考え方が違うだろうし、ファッションも違うだろう。ロックを聴いているヒトには、自らそれを選び取ったという自負があるはずだ。だからこそ逆に、安易に自分の趣味を、他人に押しつけたりはしないだろう。

レコードを聴かすことには、「好きだ」と告白する以上の意味が…。

 それでも気になる女の子には、ぜひ聴かせたいと決めたからこそ、“ロックなんか”という、へりくだった表現が選ばれたのかもしれない。男の子自身は、決して“なんか”とは思ってない。ロックという音楽を“命”のように大切にしてる。この場合、好きなレコードを女の子に聴いてもらうという行為は、言葉で「好きだ」という以上の精神的に重たい意味を持っている。

敢えてこの歌には“スペース”を

 アルバム『青春のエキサイトメント』や既発シングルなど聴くと、彼女は実に柔らかな言語感覚の持ち主であることが分かる。チクっとした言葉もマルっとした言葉も自由自在だ。「君はロックを聴かない」にしても、もっと微に入り細に入り、様々な歌詞の装飾も可能だったろう。でも、敢えてそれはしなかったのではなかろうか。その結果、聴き手が思い入れや独自の解釈ができるスペースが、たくさん用意された歌となった。

ファースト・アルバム『青春のエキサイトメント』の“傑作性”とは?

 ここでしか出逢えない詞の視点が満載で、名曲揃いなのが『青春のエキサイトメント』である。インディーズ時代のほうがぶっちゃけ感はあるけど、そのままやりたきゃメジャーに来る理由はない。よく多くの人達の耳に触れ、だからって萎縮せず、見事に“あいみょんらしさ”を更新出来ているのが、このメジャー・ファースト・アルバムなのだ。

衝撃のデビュー曲「生きていたんだよな」について書くと、そもそもこのタイトルからして、本来日本語にはない現在完了形っぽいニュアンスで、自ら死を選んだこのセーラーの少女に対する哀悼を表している。J-POPファンのなかには、ユーミンの「ツバメのように」を想い出す人もいるかもしれない。あぶないから離れろは[集合の合図]なのだという、集団心理に対するニヒルな観察も鋭い。

「いつまでも」という作品もいい。メジャーへ進出した自分よガンバレみたいな歌と受け取れる。イタい経験自慢みたいなことが、そのまま説得力となる安直な風潮に対して、疑問を投げかける歌詞でもある。世の中にある[表現]というのは[同情で成り立ってんのかなあ]というのは、僕自身も常々想ったりすることでもある。

詞のコラムなので、それを中心に書いたが、ボーカリストとしてのあいみょん、作曲のほうもあいみょんにも、大きな可能性を感じる。特にボーカルは、作品によってキャラが少し変化する歌声を披露している。自分のなかに様々なボーカリストが“住んで”いるなら、それがそのまま、楽曲作りの多様さへもつながるだろう。

確かどこかのインタビューで、日本語の表現の巧みさという意味においては官能小説に惹かれる、といった発言をしていたと思う。これも非常に共感できる話だった。インディーズの頃の作品だが、「いいことしましょ」には、そんなテイストもある。彼女のことなら、まだまだ色々と書けそうだが、次の機会に。
INFORMATION
6thシングル『今夜このまま』
2018年11月14日発売
WPCL-12971 ¥1,080(税込)

ジャケット画像です。
<収録曲>
02.猫(2018.10.7 Live at 上野恩賜公園野外ステージ)
03.風のささやき(2018.10.7 Live at 上野恩賜公園 野外ステージ)
04.今夜このまま(Instrumental)
アマゾン画像です。
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