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第41回 My Little Lover
「Hello, Again 〜昔からある場所〜」
 今年デビュー20周年ということで、ニューアルバムもリリースされるMy Little Lover。思えば彼らが登場してきた時代というのは、ユニット全盛だった。ユニットはメンバー間の結びつきがバンドほど一蓮托生ではないのが特徴。でもそのかわり、舵取り役となるプロデューサーの存在が大きくモノを言った。当時、小林武史が遺憾なくその才能を形にしていったMy Little Lover。もちろんサウンドが革新的だったけど、彼の作詞家としての凄さには、何度も呻らされた。POPソングなのだから、その世界観に普遍性があることが必要だけど、普遍性だけでは“ありきたり”と同義語になりかねない。そこで革新性も重要となるのだが、そこだけ出ると“取っつきにくく”もなる。このふたつがどんなバランスを成すかが大切なのだが、その成功例が彼の手がけたものだった。これから紹介するのは彼らの代表曲「Hello, Again 〜昔からある場所〜」。ごくごく親しみ易いポップな楽曲としてダブル・ミリオンに迫るセールスを記録しつつ、実はこの歌にしかないヒミツがある。それをこれから書く。

実はJ-POPの新たな地平を拓いた重要曲

 ボーカルakkoの歌声は、頼りなさげでありつつも力強い。このアンビバレンスが聴く人の胸に届く。レコーディングに際しては、彼女の声が効果的に重ねられ、そこに“揺らぎ”も生まれる。でもこれこそが、かつてメンバーであり、この音楽ユニットのプロデュースを担った小林武史の目指すところでもあった。“揺らぎ”は歌声そのもののことのようでいて、詞の世界観ともリンクする。かつて小林はこう言った。「この歌の新しい部分って、自分の可能性も自分の限界も見て、その両方をすり合わせながらひとつのベクトルを提示できてるところだと思う」。これはまさに送り手自らが己の作品に対して冷静な評価を下しての発言だろう。確かに言われてみたら、まさにそういう歌だ。限界と可能性は両極のもの。それをひとつの歌のなかに持ち込もうとしたら、何を言いたいのかちんぷんかんぷんになりそうだし、限界に関してはひとまず置いておいて、可能性を前に出すなら“励ましソング”として成立しやすい。でもそこで、表現者としての更なる粘りが発揮され、完成したのがこの作品だった。作曲はギターの藤井謙二と小林武史。発売当時はKATEとなっていた作詞家クレジットは、現在は小林武史に変更されている。

さて、限界と可能性に関して具体的に歌詞にあてはめて言うなら、ズバリ、“自分の限界が”以下の印象的なフレーズがまず耳に残る。でもそれを“知るため”に“生きてる”わけじゃないと続いていく。普通なら、限界を知ることが己を知ることでもあるだろう。ここがこの歌は大きく違う。さらに“新しい扉”を開けて“海に出れば”と続く。 この後は、どこまでも夢を求めて航海を続けそうなところだけど、この歌はなんと、“果て”を感じられるとも言っている。なんという達観だろう。いや、結論はまだ早い…。そうやって広がっていきそうで、ひとつの場所に留まるかのような不思議な感覚こそがこの歌の他にはない魅力かもしれない。 冒頭から展開されるストーリーは明らかに失恋ソングの体裁なのだけど、でもサビの部分では永遠の愛にも手が届きそうになってくる。つまり“記憶の中で”二人は生きていけると歌っているので…。これも他の歌では味わえない独特の居心地だ。このサビのところは転調されていて、上方へ突き抜ける感覚というより、ここでぐっと重心低く踏みとどめている感じ。そんなメロディの触感と歌詞の語感が効果的に響き合っている。
ジャケット画像です。
「Hello, Again 〜昔からある場所〜」
1995年8月21日
トイズファクトリー
歌詞を見る。
My Little Lover
akko(Vo)によるソロプロジェクト。1995年に結成。小林武史のプロデュースにより、ギタリスト藤井謙二とのユニットとして活動を開始。デビューシングル「Man&Woman/My Painting」がいきなり大ヒットし、以後も立て続けにミリオンヒットを出す。2006年11月より、akkoのソロプロジェクトとしての活動がスタート。2015年5月からデビュー20周年を迎えている。
“昔からある場所”とは何丁目の何番地なのだろう…。

 その際、実に多くのメッセージを発しているのが曲のタイトルだ。「Hello, Again 〜昔からある場所〜」。実は歌詞の最後の1行である“Hello, Again my old dear place”というのがタイトルそのままを英語にしたもの。となると、この“昔からある場所”=“my old dear place”とはいったい何処にあるのかを解明することで、歌の本質へと行き着くことができるのかもしれない。 この曲が世に出た頃、小林武史に訊いたところによると、「僕のこれまでのプロデュースワークで言えば“イノセント・ワールド”っていうことなんだろう」、という答が返ってきている。さらに小林は、日常の何気ない断片のなかに突然現れる“宇宙”という、「そんなイメージの在り方」をこの歌に込めたと言うのだ。その頃の彼の話は千利休の「手の中にも宇宙がある」という考えにも及んだ。これは小林独自の表現を含むものだが、この発言を改めて噛みしめてみて、もしやこういうことでは、と、思い当たるフシがあった。

例えばあなたも、こんな経験はないだろうか。ある時、ふと全身が、得も言われぬくらいの懐かしさに包まれるという、そんな経験だ。見慣れた街であっても、時刻とか季節によって、その瞬間は訪れる。または、身の回りには質素でシンプルなものしかないのに、溢れるほどの充足感に浸れてるような気分…。そんな感覚に包まれているときは、すごく心がリラックスして心地よい。“昔からある場所”とは、もしかしたらふとしたことで出会う“魂の故郷”のようなところなのではと思ったものだった。 akkoの可憐な歌声の背景にある深遠なる世界観。でもそれは、誰もが手を伸ばせば届きそうなところにあることも示している。だからこの歌はPOPソングとして優秀なのだ。
INFORMATION
ニューアルバム
「re:evergreen」
2015年11月25日発売
レーベル:トイズファクトリー
ジャケット画像です。

TFCC-86537 ¥3,200(税抜)

<DISC 1>[re:evergreen]
1. winter song が聴こえる
2. pastel
3. 星空の軌道
4. 今日が雨降りでも
5. バランス
6. 夏からの手紙
7. 舞台芝居
8. 送る想い
9. ターミナル
10.re:evergreen
<DISC 2>[evergreen+]
1. Magic Time
2. Free
3. 白いカイト
4. めぐり逢う世界
5. Hello, Again 〜昔からある場所〜
6. My Painting
7. 暮れゆく街で
8. Delicacy
9. Man & Woman
10.evergreen
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