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第32回 福山雅治「桜坂」
 福山雅治という人の特色は、俳優としてもミュージシャンとしても第一線で活躍し続けていることだろう。普通なら二足の草鞋などと揶揄されかねないところ、しかし彼の場合、“二足”とも見事にピカピカなのである。演技者としての魅力を解説することは、他の方に譲るとして、アーティストとしての彼のことを少し書いてみたい。まずは歌。男性ボーカリストが高いキーへ高いキーへと行く傾向のなかで、この人には中音域の魅力がある。結果として伝わるのは男性的な包容力や色気(僕はこういう場合、“のど仏が見える歌声”などと表現してみたりするのだが…)。

さらに魅力はライヴにある。何度か観に行ったことがあるが、最初はちょっとした衝撃を受けた。ファンの方には“何を今更”なのだろうけど、彼はボーカリストであるだけじゃなく、実に歌心溢れるリード・ギタリストでもあるのだ。自らが弾きまくることで、共演する腕利きミュージャン達も実に楽しそう。ただ、そうでありつつも、スターであることをサボらないのが福山なのだ。あれはいつだったか忘れたが、ライヴも佳境となり、花道に進み出た彼が、ポーズをキメて、上着をパッと脱ぎ捨てた瞬間のファンの歓声のもの凄かったこと!そんな姿を目撃した時は、つくづくそう思ったものだった。

あの坂は、どこの街にも心の中の“ご当地”として存在する

 さっそく本題に移ろう。この歌がヒットしたの2000年。そんな前だったのかと思う。歌の舞台とされるのは、東京大田区の沼部駅近くに実存する、まさに春には桜が満開となる同名の坂である。なんでも福山は、この近所に住んでいたことがあり、いつかこの坂のことを歌に出来たら、とも思っていたらしい。で、「いつかこの坂のことを歌に出来たら」というのは、ソングライターとしての勘も働いてのことだったのではと思う。

というのも、もしこの坂がもっと地域を限定する名前(たとえば駅名をとって“沼部坂”とか…)だったら、おそらく彼は歌にはしなかったのではなかろうか。もし書いたとしても、いわゆる地域振興も兼ねた「ご当地ソング」的な取り扱いになったことだろう。もちろん「ご当地ソング」にも素晴らしいものはたくさんある。たとえば山口百恵の「横須賀ストーリー」なら、あの街だからこそ生まれたであろう恋愛の質感が、阿木燿子のペンにより丹念に描かれているわけだ。

「桜坂」の場合、そこに“ご当地”的側面があるにしても、限定的ではない。いわば、聴いた人それぞれの、“心のなかのご当地”を喚起させるのだ。ちなみに僕自身は、田園都市線の鷺沼駅からたまプラーザ駅への桜並木が、自分の心のなかの“桜坂”だったりもする。実際の「桜坂」ほど、急勾配ではないけれど…。
ジャケット画像です。
「桜坂」
2000年4月26日発売
Universal Victor
歌詞を見る。
福山雅治
シンガーソングライター。1969年長崎県生まれ。1990年にシングル「追憶の雨の中」でデビュー。自身初の100万枚セールスを記録した「IT'S ONLY LOVE」をはじめ、2000年「桜坂」が200万枚を越えるヒット。以降、数多くのヒットソングを世に送り出している。音楽活動の他、俳優、ラジオパーソナリティ、カメラマンなど幅広い分野で活躍している。
♪Woo Yeah〜の説得力について

 ここからは歌詞を細かく見ていこう。この作品がラヴ・ソングであることは間違いないが、まずは[君よ ずっと幸せに]という歌い出しのフレーズが、実に効いてる歌詞構成である。主人公の今の想いは、この部分に集約されており、他は回想と受け取れる。主人公の恋愛は、濃淡でいうなら淡さから濃さを増す、その1ミリ手前、といったところではなかろうか。その証拠となるのは、[恋をしていた]としながらも[愛と知っていた]というフレーズが登場すること。さらに[頬にくちづけ]はするけど[抱きしめたい]に関しては[気持ち]があるだけでこの時点では未遂である。[頬にくちづけ]のあとに[染まる桜坂]と続くところは、つくづく感心する。この“染まる”は辺り一面のソメイヨシノの花びらの色合いでありつつ、相手がその瞬間、“頬を染めた”ことも連想させるからだ。

さらにひときわ印象的なのは[♪Woo Yeah〜]である。みなさん同感だと思う。最初に出てくるのは[風にそっと歌うよ]と[愛は今も]の間であり、その後、さらに二度ほど登場する。もし福山が曲から先に手がけて、しかも他のシンガーソングライターがよくやるように、デモを作る段階でなんちゃって英語的なコトバを呟きながらメロディを紡いだとしたら、この[♪Woo Yeah〜]は、その時からそのままの形でこの場所に存在していたかもしれない。まあ、そんな経緯はともかく、このウ〜イャァ〜という呟きは、実に多くの感情を代弁する。

なかにし礼さんの『歌謡曲から「昭和」を読む』(NHK出版新書)という本によると、これはいわば「ワンポイント・ルーズ」とでも呼べる作詞の技法であることが解説されている。古くは大正時代の「カチューシャの唄」にも使われているテクニックだそうだ。あえて具体的じゃない合いの手のような言葉を挟むことで、「人の心が入り込む余地」も生まれるのだそうだが、確かに言われてみれば、心に残る多くの名曲のなかに見受けられる。最近だったら中田ヤスタカのPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅへの提供詞などに、メタな段階にまで達した“ルーズ”さが見受けられるのかもしれない。最後は「桜坂」から離れた話になってしまい失礼いたしました。
INFORMATION
「FUKUYAMA MASAHARU WE'RE BROS. TOUR 2014 HUMAN」
2014年11月20日発売
レーベル:アミューズ

ジャケット画像です。

GTCG-0647 5,556円(本体)+税

※限定先行発売中


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