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第6回 岡村孝子「夢をあきらめないで」
 岡村孝子といえば熱狂的なファンが存在することで知られる。そうした支持をされる人はどこか神秘性があり、それが余計、ファンを熱狂させる。ひと頃、彼女は「お嫁さんにした女性アーティスト」部門で第1位でもあった。歌声にひかれてライヴを観に行くと、こちらが膨らませた想像を裏切らない彼女がステージにいた。
しかし僕は知っている。たしかにメディアやステージのイメージはそうかもしれないが、アーティストとして見た時の彼女は違う。会って話してみると、こと音楽制作に於いては、相当に頑固な人だ。でも、そうでなければ「孝子調」というか「孝子節」というか、世間にそう認知されるような音楽性を築くことは出来なかっただろう。

 曲を書くことに関しては、早くから適正があったようだ。出世作は大学生の頃に組んでたあみんの「待つわ」だが、高校時代から多くの楽曲を書いていた。当時は学園祭でバンド組んで、誰かのコピーやるというのが主流だった。しかしそんな場面に通り掛かると、彼女はこう呟いたという。「コピーなんだぁ…」。こちらはオリジナルだ。しかも調子がいいと、1日に5曲とか書けたらしい。そしてソロとなり、ともかく多忙だったあみん時代には果たせなかったことにもトライする。もともと作品作りには定評があり、着実に地歩を固めていく。
そんな中、もっとも有名になった曲と言えば、5枚目のシングルとして出された「夢をあきらめないで」だ。久しぶりに聴いてみたら、メロディに対して実にゆったりと言葉がのっていることが新鮮に思えた。最近の歌は、必要以上に詰め込みすぎてやしないだろうか…。

「一番使い方が難しかったのが“頑張って!”という言葉だった」

 この歌はじわりじわりと広まっていった。リリースされた以降も様々なメディアで紹介され、気がつくと、押しも押されぬスタンダード・ナンバーとなっていた。「自分を信じて頑張っている人達への応援歌」として定着したのだった。ただ、彼女が最初から意図したことではなかった。それどころか岡村自身は、安易な励まし自体、あまり好きではないようだ。温かい言葉を掛けられても、ついつい言葉の「裏をとってしまうタイプだ」と発言したこともあるくらいなのだ。
ラジオでDJを担当していた時も、「一番使い方が難しかったのが“頑張って!”という言葉だった」と言っていた。理由は明快。「いくら気持ち込めても、結局、頑張れるのは本人だけなので…」。
ジャケット画像です。 「夢をあきらめないで」
1987年2月4日発売
ファンハウス
歌詞を見る。 岡村孝子 シンガーソングライター。1962年1月29日生まれ。1982年にフォーク・デュオ「あみん」としてデビューし、1985年にソロデビュー。“OLの教祖”と呼ばれ、女性から圧倒的な支持を受ける。代表曲「夢をあきらめないで」は、中学校の音楽の教科書にも採用され、応援歌の定番曲となっている。
 そんな彼女がなぜ「夢をあきらめないで」という作品を書いたのだろうか。まず考えられるのは、歌を書く立場の人間として、“これまで書いたことないシチュエーションで失恋を描く”というテーマにチャレンジしてみた、ということだ。実に作家的な動機である。でも結果として、他に類を見ない特色ある失恋ソングとなった。
励ましソングや応援ソングとして認識されるキッカケとなったのは、“熱く生きる瞳が好きだわ”という、このキラー・フレーズあってのことだろう。これ、言われてまったく厭(いや)ではない言葉だ。僕なんかも、「え? そう? おれの瞳、熱い?」とか調子に乗ってしまいそうだ。
この言葉から伝わるニュアンスは、「肩を押される」とかっていう押しつけがましいものじゃなく、自分がそんな充実した状態を、相手が「見逃さずにいてくれた」くらいの程よさだ。だからこの言葉、言われてまったく厭じゃないわけだ。
“頑張って!”という言葉を軽々しく使いたくない彼女の次の処方箋は、その代わりとして“あなたらしく”という言葉を選んだのではなかろうか。これなら先程の、「いくら気持ち込めても、結局、頑張れるのは本人だけなので…」という考え方にも背かない。

 「夢をあきらめないで」というタイトルについては、若干の議論もあるようだ。「軽々しく諦めるなだなんて、なんて無責任な」という捉え方も、出来ないこともない。その人に才能はおろか適正もないのだとしたら、さっさと夢なんて諦めたほうが幸せ…。「諦めがつかない状態にするのはかえって残酷なことだよ」、なんてことも言えるかもしれない。
そこで効いてくるのが、サビの頭の部分だ。単に“夢をあきらめないで”と歌うのではなく、岡村孝子は“あなたの夢を あきらめないで”と歌っている。“あなたの夢”は、あなたにしか分からない可能性も高い。ここでも先ほどの“頑張れるのは本人だけ…”という想いに通じているわけだ。

この歌は人を励まし勇気づける運命にあったのかもしれない

 当初から人を励まそうと思って書いたわけではない「夢をあきらめないで」は、結果として、今も多くの人を励まし続けている。最初こそ「そんな受け取られ方もするのか」と思った彼女も、こうして多くの人に愛されていることを、今は嬉しく思っているのだろう。
では最初から、もう一度聴いてみよう。“乾いた空に 続く坂道…”。この歌詞からして、相手は坂を下るのではなく、上りつつ、自分から離れていってるのがわかる。でなければ空へは続かない。上り坂というのは、もちろんポジティヴなイメージだろう。この、冒頭のフレーズを思いついた瞬間から、この歌は「人を励まし勇気づける運命」にあったのかもしれない。
INFORMATION

ジャケット画像です。
17thアルバム
「NO RAIN, NO RAINBOW」
2013年3月27日発売
価格:3,150円 (税込)
YCCW-10198
<収録曲>
1. あなたにめぐりあう旅
2. ありがとう
3. 大切な人
4. NO RAIN, NO RAINBOW
5. 運命なら…
6. 時間の砂 2013
7. あしたの歌
8. ゴール
9. 青い風 2013
10.ふるさとにて
アマゾン画像です。
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