逆光

 2024年5月22日に“mol-74”がニューアルバム『Φ』(読み方:ファイ) をリリース! タイトルは“光束(光の明るさを表す物質量)”の量記号「Φ」に由来。また「Φ」は直径を表す記号でもあり、アルバムのプロローグ的な立ち位置の1曲目「Φ12」は人間の瞳の直径を意味しております。今作には、この「Φ12」をはじめとして、それぞれの楽曲の主人公たちが自らの瞳で捉えた光をテーマとした全11曲が収録。
 
 さて、今日のうたではそんな“mol-74”による歌詞エッセイを3回に渡りお届け。第1弾はメンバーの武市和希が執筆。綴っていただいたのは、収録曲「BACKLIT」にまつわるお話です。ある日見たあの頃の夢。歌詞に描いた、その夢を見たあとに残ったものとは…。



ある日、高校生だった頃に戻る夢を見た。
 
僕は高校を卒業後、地元の徳島を離れて京都の専門学校へ進学した。それからはずっと京都に住んでいるということもあって、高校時代の友人たちと会うことは年を重ねるごとに少なくなり、最後に会ったのは何年前だったのかも思い出せない。
いや、時間の経過をあからさまに実感してしまうのであまり思い出したくない。
 
野球部を一緒に辞めたあの子。
ひどい事を言って傷付けてしまったあの子。
一緒に自転車で通学していたあの子。
獣医になりたいと言っていたあの子。
「おれはこの高校一のギタリストになるぜ!!!(今思うと目標が低い)」と言い切った数ヶ月後にはあっさりバンドを辞めてしまったコピーバンドのメンバーだったあの子。

そんな、今の僕にとって疎遠になってしまった彼ら彼女らと夢の中で十数年ぶりの再会をした。

夢の舞台は教室で、授業と授業の合間の休憩時間に何気ない会話をするというものだった。
具体的にどんな話をしたかは思い出せないのだけれど、とにかくリアルで、ひとりひとりの表情がキラキラとしていた。
青くて赤い。
懐かしさと一周回った新鮮さでとても楽しかった。
美しかった。

ただ、夢というのはいつも通り雨みたいにいきなりやってきて、水たまりのような余韻を残してすぐに姿を消してしまう。

現実に吸い込まれるように目が覚めると、いつものベッドから仰向けで見える天井がぼんやりと僕を見ていた。
何かを夢の中に忘れてきてしまったような気がして、もう一度目を閉じてみたけれど夢に戻ることはなかった。

僕は高校生の頃の後悔であったり、やり残したことは特にない。多分、ない。
なのに現実よりも夢の方が数倍充実していた気がして、押し出されたような孤独感とジトっとした余韻がしばらく続いた。
 
いよいよ今月22日にリリースされる僕たちの新しいフルアルバム『Φ』。
6曲目に収録されている「BACKLIT」は、そんな夢を見た後に残った孤独感と余韻をもとに歌詞を書いた。
 
「BACKLIT」とは直訳すると"逆光"という意味がある。
光の強さは違えど、今まで歩んできた道のりを振り返ってみると、光放っている瞬間があなたにも存在するのではないだろうか。
別に戻りたい訳でも、やり直したい訳でもない、大切な時間や場所。
 
今の自分にとっての日常の当たり前と、あの頃の当たり前を重ね合わせて、例えはみ出した部分が大きくても、笑って、抱きしめて、胸を張って生きていたい。きっと今日も、あの頃の僕らが背中側から未来を照らしてくれている。

<mol-74・武市和希>



◆紹介曲「BACKLIT
作詞:武市和希
作曲:mol-74
 
◆ニューアルバム『Φ』
2024年5月22日発売
 
<収録曲>
01.Φ12
02.遥か
03.オレンジとブルー
04.Mooner
05.通り雨
06.BACKLIT
07.虹彩
08.フランネル
09.アンサーソング
10.寝顔
11.R