花の束になり腐っても「おとぎばなしかよ」って笑うかな。

 2018年8月22日に“edda”がニューシングル「フラワーステップ」をリリースしました。彼女は、儚く美しい歌声と、異世界ファンタジーを見せてくれる歌詞が大きな魅力であるアーティスト。では、タイトル曲「フラワーステップ」には、どんな物語が綴られているのでしょうか。爽快で、軽やかで、生命力に溢れているサウンドの中、主人公のどんな感情が息づいているのでしょうか。

小さく花が咲いていたんだ
左耳あたりポツリ
次第にそれは増えていて
今では前も見えないほどだ

もぎ取られて
怯む視界の隅
声が滲んだ
「フラワーステップ」/edda

 歌の冒頭からもう、起承転結の摩訶不思議な“起”が描かれておりますね。ある日、気がついたら<左耳あたりポツリ>と咲いていた小さな花。それには何らかのきっかけがあったはずですが、ここではまだその起因は明かされていません。ただ、わかっているのは<次第にそれは増えて>いくものであり<今では前も見えないほど>に主人公の顔中を花が覆っているということ。

 さらに、この<花>は誰かに<もぎ取られて>しまうような存在であるようです。物語のなかでは、誰かの“嫉妬”の対象となるものなのかもしれません。または「気持ち悪い」と“嫌悪”されるものなのかもしれません。そんな他者の悪意に気持ちがくじけそうになり、涙で滲む声…。しかし主人公自身は、おそらくこの<花>に対して否定的な気持ちはないのです。どこか愛おしくさえ思っているようにも感じられます。

フラワーステップ 君に見せたいんだ
もうこのまんま 花の束になり腐っても
「おとぎばなしかよ」って笑うかな
鼓動に根がめぐる前に
「フラワーステップ」/edda

 だからこそ、印象的に響くのがサビフレーズ。主人公は自分の身体の上をポツリポツリ、ステップを踏んでゆくように咲いてゆく花=<フラワーステップ>を<君に見せたい>と言っているのです。もはや<もうこのまんま 花の束になり腐って>ゆくことさえ望んでいるのではないでしょうか。さらに、主人公が思い浮かべている<君>の反応も、その<花>を“もぎ取る”ような他の誰かの反応とは異なります。

 身体中に花が咲いていようと、たとえ<花の束になり腐>ろうと、どんな自分であろうと「おとぎばなしかよ」って笑ってくれるような存在。態度が変わったりしない人。それが主人公にとっての<君>なのだと思います。だから何だって<見せたい>と思える。お互いの“信頼”や“絆”が伝わってきますよね。ただし、最後の<鼓動に根がめぐる前に>とは、何を表しているフレーズなのでしょうか…。

想いの数だけ
増えていくこの花を
こぼさないように

フラワーステップ 君に会いたいんだ
なんてことない 表情してさ明日でも見よう
「待ちくたびれたわ」って笑うかな
鼓動に根がめぐる前に

 そして、ここでやっと身体に<小さく花>が咲く起因が明らかになります。この花は<想いの数だけ 増えていく>みたいなんです。たとえば、大切な<君>に<見せたい>と想ったなら、ポツリ。<会いたい>気持ちが募ったら、ポツリポツリ。そうやってどんどん増えていくのが<フラワーステップ>というもの。身体の花は<君>への“想いの証”だからこそ<こぼさないように>と愛おしくて<君>に見せたかったのですね。

たどり着いた 懐かしい場所
眠る君を見た
ああ もう涙も流せやしないのに

フラワーステップ 君に見せたかった
ほら こうやって 花の束になり腐っても
「おとぎばなしかよ」って笑ってよ
鼓動に根がめぐる頃だ ねえ
心をどうかつないで ぎこちなくても
「フラワーステップ」/edda

 しかし歌の終盤。物語は突然、切なすぎる“結”を迎えるのです。主人公の<フラワーステップ 君に見せたいんだ>という言葉は<君に見せたかった>と過去形に変わっております。つまり、もう<花>を<君>に見せられない結末へと辿りついてしまったのでしょう。何故なら主人公か<君>かのどちらかの<鼓動に根がめぐる頃>だから。主人公は<フラワーステップ>という病によって、命まで侵されてしまったのでしょうか…。

 もしくは、冒頭から<君>という存在はこの世から消えてしまいそうだったとも考えられます。そのショックゆえに、主人公には身体に小さな花が咲き始めるという現象が起きた。そして想えば想うほど、どうしようもないくらいに<フラワーステップ>は増え続け、やがて<君>が二度と目を覚まさなくなってしまったとき、ついに主人公は<花の束になり腐って>しまった…。

 そんな哀しい深読みもしてしまいたくなるのが、edda「フラワーステップ」なんです。だけど、曲からは切なさや哀しみだけではなく、こんなにも誰かを想う気持ちに溢れた綺麗な景色も見えてきませんか? きっと主人公は今、心も身体も<君>を想う証でいっぱいです。eddaにしか描けない「フラワーステップ」の異世界を是非、歌詞からも覗いてみてください。
 
◆紹介曲「フラワーステップ」
作詞:edda
作曲:edda

◆ニューシングル「フラワーステップ」
2018年8月22日発売
初回盤 VIZL-1422 ¥1700+ 税
通常盤 VICL-37426 ¥1200+税

<収録曲>
M.1 フラワーステップ
M.2 ミラージュ
M.3 魔法 -Studio Live ver -
M.4 フラワーステップ (Instrumental)