あなたも今、そこそこ幸せでありますように。

 2017年12月20日に“カサリンチュ”がコンセプトミニアルバム『待つ、うらら』をリリースしました。今作は【カサリンチュが歌う女心】をテーマに、様々なジャンルの女性が作詞で参加!今日のうたコラムでは、その中から元チャットモンチーの“高橋久美子”さんが歌詞を手がけたラブソング「セーターと三日月」をご紹介いたします。

ガタゴトリ 三日月美し世田谷線
ゆらゆらり 思い出は速度を上げてゆく
友達に連れられて あの日のあなたは
居酒屋の隅っこで外ばかり眺めていた
「セーターと三日月」/カサリンチュ

 みなさんはふとした瞬間、別れた恋人のことを思い出すことってありませんか? この歌の主人公<私>は世田谷線にゆられながら見つめた<三日月>がきっかけとなり、かつての記憶ファイルがクリック再生された模様。まず、三日月を<美し>と感じているところから、それがイヤな感情を伴った思い出ではないことが伝わってきますね。

満月より三日月が好きで
春よりも冬が好きな人
セーターの洗い方も知らなくて
私より本が好きな人
「セーターと三日月」/カサリンチュ

ビールよりもコーヒーが好きで
今日よりも明日が好きな人
セーターの洗い方も知らなくて
私よりも夢が大切な人
「セーターと三日月」/カサリンチュ

 そして、記憶の中の<あなた>はこのように綴られております。なんだか“好き”なものから、お相手の“人となり”がうっすら見えてきそうです。あの日<居酒屋の隅っこで外ばかり眺めていた>その人は、どこか<三日月>のようにぼぅっと儚げな空気をまとっている人。冬が好きなくせに<セーターの洗い方も>知らないちょっと頼りないところもあった人。

 だけど、確かに<私>の心を惹きつける淡い光を放っていた人。居酒屋でみんなとワイワイ騒ぐより、ひとりでコーヒーを飲みながら本を読みたい人。未来と夢を見つめている人。ただきっと<私>はそんな<あなた>の愛や夢がこれから満月のように大きくなってゆくものなのか、もっとか細くしぼんでしまうものなのか、いつも不安だったのではないでしょうか…。

ぽつぽつり あの日と同じみぞれ雪
隣には あなたより優しい人がいる
「春来れば富良野へラベンダー見に行こう」
嬉しいはずなのに またあなたの事考えてた
「セーターと三日月」/カサリンチュ

 やがて<私>と<あなた>は終わりを迎え、今<隣には あなたより優しい人が>おります。今の恋人はおそらく、冬より春を愛し、誰より何より私を愛し、セーターの洗い方だって知っていて、いつも満月のような眩い光を放っている人。もちろん、それは幸せ。それでも<またあなたの事考えてた>のは、未練とも違うのでしょう。

あなたも 今
そこそこ幸せでありますように
私よりも ちょっとだけ平凡な彼女と
この空を見ていますように
あなたも 今
少しは後悔していますように
私よりも ちょっとだけ長く
二人でいた淡い季節
思い出していますように
「セーターと三日月」/カサリンチュ

 それは、大好きだった映画を久々に観た後の余韻に似ているのかもしれません。懐かしいなぁ。素敵だったなぁ。愛おしかったなぁ。でも、エンドロールが終わって、席が明るくなれば<私>は<あなたより優しい人>との現実に戻ってゆくのです。もうしばらく、あの物語を思い出すこともないはず。

 ただ、そうしてエンドロールが流れている時間の、静かで温かな感情を描いたのが「セーターと三日月」という楽曲なのだと思います。別れた人の幸せと少しの後悔を願う気持ち。今の自分の幸せと少しの後悔をそっと思う気持ち。それは「過去」と「今」の点と点を線で結んで、自分の道を見つめる大切な時間ですよね。では、みなさんにとっての“あの物語”の<あなた>は、どんな人でしたか…?

◆コンセプトミニアルバム『待つ、うらら』
2017年12月20日発売
ESCL-4951 ¥2,000(税抜)

<収録曲>
1.セーターと三日月
2.伝えに行くの
3.犬を飼う理由
4.鏡
-Bonus Track-
きのう、今日、あした