あの時も今日だってこれからも胸が苦しい。

 2017年11月1日に“吉田山田”が5thアルバム『変身』をリリースしました。彼らが、自身の弱さや恥ずかしい部分など、心の中を見つめて出来上がったという今作。きっとそのように自分としっかり向き合ってみると、気づかぬうちに変身できていたところや、これから変身したいと思うところが見えてくるのでしょう。さて、今日のうたコラムではその収録曲から、不思議な形で“変身”が描かれた楽曲「浮遊」をご紹介いたします。

早く着きすぎたのは何でだ?
プラットホームはまるで洗濯機
改札抜けたら君がいて
約束の一時間も前
「浮遊」/吉田山田

 一見、普通にデートの始まりの風景を描いているかのようですよね。しかし同時に、ふんわりとした違和感も漂っている気がしませんか? まず<早く着きすぎたのは何でだ?>という自問で始まる歌。主人公はまるで他人事です。しかも<約束の一時間も前>に着いたのに、なぜか改札を抜けたら<君>も同じ時間に着いていた…。ちょっと怖い偶然ですが、この不自然な待ち合わせの真相は、のちに明かされることとなります。

夏の残り香 小さなピアス
汗かいたグラス烏龍茶
包み隠さず君が笑う度
フワリと世界の糸が切れて
風船みたいに浮かんでく

あなたの笑顔に助けられ どこまでもどこまでも
あの時も今日だってこれからも胸が苦しい
切なくて楽しくてもっとそばにもっとそばに

そう 君の空へ落ちてく
「浮遊」/吉田山田

 そして、待ち合わせから場面は急転。<夏の残り香 小さなピアス 汗かいたグラス烏龍茶>と、五感で感じた<君>との時間がパッ、パッ、パッ、とスライドショーのように心に伝わってきます。主人公は<君>といる間、社会のなかで生きる自分の在り方や周りからの目など、どんな現実も忘れられていたのではないでしょうか。きっとそれが<フワリと世界の糸が切れて 風船みたいに浮かんでく>というフレーズに表れているのです。

 ただ、それまで<君>と呼んでいた相手が、ふいに<あなた>へ変わるところも注目です。どちらも同一人物であるはずですが、<君>との時間が描かれているフレーズは、具体的な風景の描写が多く、存在をすぐ近くに感じられます。一方<あなた>に語りかけているのは、抽象的な心情であり<もっとそばにもっとそばに>と願うからこそ、逆に距離感がある。そして<君の空へ落ちてく>と、呼び名がまた<君>に戻り、まさにタイトルどおり<君>と<あなた>の間で【浮遊】しているような感覚に陥るのです。

このままこの世界中がいっそ 止まれば このまま…

あなたの笑顔のその理由に いつまでもいつまでも
このままじゃいられなくて伝えたくて手を伸ばして
その右手を繋ぐとこで目が覚めて夢の終わり
「浮遊」/吉田山田

 さて、このように幕を閉じる歌。あの不自然な待ち合わせも、歌詞の【浮遊】感も、すべてはそれが“夢”だったからなんですね…。でも、夢というのは現実の鏡だとよく言われております。もしかしたら、冒頭の<早く着きすぎたのは何でだ?>という自問は<このままじゃいられなくて伝えたくて>、でもまだ大切なことを伝えられてない焦り、のようなものが原因で夢の中に生まれた気持ちかもしれません。
 
 また<風船みたいに浮かんでく>=【浮遊】の夢は、縛られている何かから自由になりたいという想いの表れでもあるんだとか。ということは、主人公は現実でまだ<世界の糸>にキツく繋がれているのではないでしょうか。だからこそ、夢にそんな自分から解き放たれたい“変身願望”が表れているのではないでしょうか。解釈の答えはわかりませんが、たしかに「浮遊」のなかに漂う“変わりたい”という気持ちを是非、歌詞から、楽曲から、味わってみてください…!

◆5th ALBUM「変身」
2017年11月1日発売
スーパーデラックス盤 SCCA-00058 ¥9,800(税抜)
デラックス盤 PCCA-04590 ¥3,500(税抜)
ボーナストラック盤 PCCA-04589 ¥2,500(税抜)

<収録曲>
1. HENSHIN
2. 浮遊
3. 宝物
4. 街
5. YES!!! -Album ver.-
6. しっこ
7. ホントノキモチ
8. 化粧
9. Snowin’
10. RAIN
11. 守人