ああ、なんで大事にできなかったの。

せっせっせ 探して
これしかないって人
君しかないってこと
「闇夜に提灯」/赤い公園

 2017年8月31日をもって、ボーカルの佐藤千明さんが脱退する“赤い公園”が、現4人体制としては最後のアルバム『熱唱サマー』を8月23日にリリース!今年2月、シングル「闇夜に提灯」発売の際には、歌ネットのインタビューに佐藤千明さんと津野米咲さんが登場してくださいました。この曲は、闇を照らすたったひとつの提灯のような【これしかないって人】を求める心を描いた歌。ニューアルバムの2曲目に収録されております。さて、今日のうたコラムでは、その「闇夜に提灯」に続く新曲をご紹介!

宇宙人相手にあれこれ手を焼いてた
地球人はきっと君と私の二人だけ

その手を握ると強くなれたんだ
なりすぎたんだ
「AUN」/赤い公園

 アルバムの3曲目に収録されているのは「AUN」という楽曲。タイトルは【あうんの呼吸】という言葉に由来し、二人で一緒に何かをするとき、お互いの気持ちがピッタリ合うことを意味します。わからずやばかりの世界のなか、あうんの呼吸な<君と私>の間には「あなただけはわかってくれる」と想い合える信頼があったのでしょう。ただひとり、そんな絶対的味方がいることで“私”は<なんでも出来るような気>になるほど強くなれたのです。そして、強くなりすぎたのです。

ちょうどいい君がもういない
探せど探せど代わりがない
しょうがない私はまた
あうんの呼吸を感じたい
ちょうどいい人はそういない
悔やめど悔やめどもういない
ああ、なんで大事にできなかったの
もっと一緒に泣きたかったの
「AUN」/赤い公園

 歌詞には<お互いダメねって笑い合うのが好きで 君よりいつもダメだったの、少しだけ>というフレーズも綴られております。おそらく二人は今まで、そのダメなところで繋がっていた部分もあるのでしょう。だからこそ、強くなりすぎた“私”に対して“君”は、取り残された感、ついてゆけない感を抱き、離れてしまったのではないでしょうか。つまり「わからない人もいるよ」と支え合ってきた相手が、いつのまにか「わからない人」になっていたということ。“君”にとって“私”はもう<宇宙人>です。

 結果、主人公は<なんであの日気づかなかったの>、<なんで大事にできなかったの>と悔やんでいますが、どちらが悪いというわけでもないのだと思います。ただ心の強度や、生きるスピードが変わってしまっただけ。無理をして相手に合わせても、それはもはや<あうんの呼吸>ではありません。こうして【これしかないって人】を失うのはツラいことですよね。それでも、これから二人はそれぞれの道で、また新たな“たったひとつの提灯”を探してゆくのでしょう…。

あなたは昔から
甘いだけの蜜を吸う
叩いても叩いても
落ちっこない橋を渡って行く

時々とろいのに
いざって時鼻が効く
あなたは昔から
彼岸花だけを嫌う
「最後の花」/赤い公園

 さらに、続く4曲目に収録されているこの曲にも、相手にとっての【これしかないって人】になりたいという想いが描かれております。きっと“あなた”は、甘いだけの蜜を吸って、火傷しない程度の火遊びの恋を繰り返すような人。そんな彼が嫌う<彼岸花>とは、強い毒を持つ花です。誤食した場合には死に至る場合もあるため、不吉なイメージの強い花なんだとか。しかし調べてみると、実はこの花、何もかも食料が尽きて、餓死という窮地に立たされたとき、最後の最後の非常食として命を守る大切な花でもあったそうなんです。まさに「最後の花」ですね。

あなたの夏が終わって
火花が息を引き取った
あとでいい、そのあとでいいから
最後の花になりたくて
散りゆく花火は一度きりだと
涙に言い聞かせた
「最後の花」/赤い公園
 
 そして主人公は、最後の花・彼岸花のように、彼のすべての色恋沙汰が尽きた<そのあとでいいから>たったひとつの大切な存在になりたいと願うのです。どこか松任谷由実さんの名曲「魔法のくすり」に綴られている<男はいつも最初の恋人になりたがり 女は誰も最後の愛人でいたいの>というフレーズを思い出します。ちなみに、彼岸花には【想うはあなた一人】という花言葉があり、この歌にピッタリなのですが、もうひとつ【また会う日を楽しみに】という花言葉もあるんです。それはなんだか、現4人体制として最後の赤い公園からの隠れメッセージにも感じませんか…?

 残念ながら、これまでの赤い公園にとっての【これしかないってボーカル】佐藤千明さんは抜けてしまうわけですが、これからも【これしかないってバンド】として前進してゆくであろう彼女たちの渾身の一作。是非、アルバム収録曲の歌詞も一言残さず、受け取ってください…!