同じ酸素を吸ってるのに、もう同じ息は吐けない…。

言葉でなんか救えない
そんな想いに抱かれてしまった
全世界が手をつなぎ
僕の行く手を通せんぼする
「BANKA」/illion


 このようなフレーズで幕を開けるのは、俳優・窪田正孝さんが主演を務める映画『東京喰種 トーキョーグール』の主題歌です。野田洋次郎(RADWIMPS)のソロプロジェクト“illion”が映画のために書き下ろし、2017年7月26日にリリースしました。この映画は、累計2300万冊の発行部数を誇る話題沸騰の超人気コミックを実写化した作品。そして物語には、まさに冒頭の歌詞のとおり、簡単に<言葉でなんか救えない>ような登場人物たちが息づいております。
 
 【喰種(グール)】とは人の姿をしながらも、人を喰らう怪人のこと。水とコーヒー以外には人しか摂取できない彼らが、東京で人間と同じように暮らしています。そして、ごく普通の大学生だった主人公(窪田正孝)は、とある事件がきっかけで突然【半喰種】に。しかし次第に彼は、喰種にだって守るべき家族や大切な友人がいること、人間と同じ感情があることを知り、二つの世界の価値観のなかで葛藤…。一方で、喰種を駆逐しようとする組織も現れ、そこから激しい戦いが巻き起こってゆくのです。

同じ酸素を吸ってるのに
もう同じ息は吐けない
枯れるまでが花なのなら
最後まで ちゃんと燃やすよ

声で交わすよりも手を握る方が わかることがあるよ
だから僕らは その手を離すの お喋りが好きなの
「BANKA」/illion

 さて、主題歌「BANKA」には、人を食べることでしか生きていけない【喰種(グール)】の感情が切々と伝わってくるような歌詞が綴られておりますが、同時に、現実世界に生きる私たちすべてにも通じる内容なのではないでしょうか。皆さんは、自分のちょっとしたコンプレックスや欠点のせいで<全世界が手をつなぎ 僕の行く手を通せんぼする>ように感じたことはありませんか? 大切な人と<同じ酸素を吸ってるのに もう同じ息は吐けない>と思ったことはありませんか?
 
 簡単に言えば“わかりあえない”という気持ちです。それでもきっと、<声で交わすよりも手を握る方が わかることがあるよ>とあるように、目と目を合わせて笑い合えば、隣に並んで肩が触れ合えば、言葉なくとも心と心が寄り添い合うことができるのかもしれません。しかし皮肉なのは<だから僕らは その手を離すの お喋りが好きなの>という現実。私たちは“わかりあえない”とき、わざと手を離して、自分が正義と信じる言葉で相手と戦おうとすることが多いのでしょう。

愛にもたれないで 愛を語らないで
無理にふりかざしたりはしないでよ

なんですぐ頼るの? なんでよりかかるの?
そんな 曖昧なもので 片目を ふさがないで
「BANKA」/illion

 サビでは、そんな“わかりあえない”人間たちへのメッセージが、illionの歌声によって放たれてゆきます。おそらく【喰種(グール)】たちは<愛>なんてものを手放しで受け入れられない壮絶な生き方をしてきたのだと思います。もちろん、そういう方は人間にだっているでしょう。そういう心に、<愛>なんていかにも正しそうな言葉をふりかざされると、何も言い返せなくなると言いますか、愛せない自分、愛されない自分が何もかも間違っているようで、苦しくなってしまいますよね…。

愛より大きな声で君は唄う
夢よりもかすかな光の中で舞う
たとえどれだけその光が 醜く輝いていたってさ
僕ら 選ばれてしまった

愛より大きな声で君は歌う
夢よりもかすかな光の中で舞う
たとえこの身体も世界も 僕をかたくなに拒んでも
僕は明日を選ぶ
「BANKA」/illion


 でも、だからこそ、illionは「BANKA」のラストで<愛>なんて言葉も、<夢>なんて光も、越えて生きてゆく命の希望を歌っているような気がします。愛にもたれないで<明日を選ぶ>と歌う“僕”の決意は、とても強く、美しい。映画のエンディングでこの歌が流れれば、たとえどんな結末だったとしても、観終えたあと、心にかすかな光が残りそうです。ちなみにタイトルの「BANKA」とは何を意味するのでしょう。悲しみを歌った【挽歌】とも、いろいろと変化する感情を表すような【万化】とも、夏の終わりの儚さをイメージさせる【晩夏】とも考えられますねぇ。みなさんは、どのように感じますか…?

◆紹介曲「BANKA
作詞:illion
作曲:illion