ママが買ってくれたランドセル、しょってるとこを見てほしい。

一番、最初に思い出す人だよ。
一番、最初に思い出す人たちが
集まっているのが家族だよ。
(ドラマ『最高の離婚』より)

 嬉しいことがあったとき、悲しいことがあったとき、伝えたいと思う人。地震が起こったとき、台風のとき、真っ先に心配する人。一言で“家族”といっても、様々なカタチがありますが、やはり【最初に思い出す人】という言葉はしっくりと来ますね。逆に、そうではなくなってしまったとき、その家族のバランスは崩れてしまうということでもあるのでしょう。

 さて、今日のうたコラムではその“家族”がキーワードとなっている作品をご紹介いたします。男女二人組デュオ・ハンバート ハンバートが2017年7月5日にリリースした9枚目のアルバム『家族行進曲』です。タイトルから思わず、温かい家族愛が描かれている曲を想像してしまいますが、今作はそんなに甘いものではありません…。むしろ歌詞のほとんどが、家族の中の“個”や“孤”に焦点が当てられた内容となっているのです。

ママの街は 土砂降りの雨
駅からのバスも 動いてないみたい

月に一度 第二土曜
今日を逃したら また来月

待っていたら 日が暮れちゃう
歩いていく ほかはない
「雨の街」/ハンバート ハンバート

 家族だからといって、ずっと一緒にいられるとは限りません。たとえば「雨の街」のように、(おそらく)ご両親が離婚している場合など。だから主人公は、月に一度しかママに会う機会がないのです。そして今日がその大切な日。ただ、街は大雨で、車の群れさえ<橋の上で 身動きとれずに うずくまってる>危険な状態…。でも、それでも、ママに会いたくて会いたくて、子どもはずぶ濡れになりながら独り、街を歩いてゆくのです。

ママが買ってくれたランドセル
しょってるとこを 見てほしい
「雨の街」/ハンバート ハンバート

 なぜなら、冒頭でご紹介したセリフのとおり、嬉しいことがあったとき、ママは【最初に思い出す人】だから。ランドセルを背負っているところを一番に見てほしい人だから。しかし、まだ6~7歳の我が子がこのような危険な日に会いに来ていることをお母さんはご存知なのでしょうか。お父さんはどうなのでしょうか。お二人にとって子どもは【最初に思い出す人】なのでしょうか…。そんなことを考えると、この家族の危うさ、すでに崩壊してしまっている何かを感じずにはいられない1曲です。

これは兄ちゃん これは姉ちゃん
そしてこれはぼくの
みんな今日は来れなくて
ぼくが代わりに来た
「ただいま」/ハンバート ハンバート

 また、「雨の街」とは状況が異なりますが、この曲も家族に“会いに行く”という状況を描いた楽曲であり、いつも一緒にいられる関係ではありません。それは、家族の誰かがすでに亡くなってしまっているからです。つまり“ぼく”は兄ちゃんと姉ちゃんの分までお線香をあげに来たというわけです。歌詞に<ねえねえ そこはどんなところですか ねえねえ 床の下の梅酒はまだ?>と綴られているところから、お母さんやおばあちゃんの姿が思い浮かびます。

あのね姉ちゃんのとこの子
寝返りうったって
それと兄ちゃん 今の人と
結婚するかもって

そうそうこの間ね 叔母さんが来て
置いてったおはぎが おなじ味だった
「ただいま」/ハンバート ハンバート

 そして“ぼく”にとってもまた、この亡くなってしまった方が【最初に思い出す人】なのでしょう。驚いたこと、嬉しいこと、たわいないこと、すべてを伝えたい相手なんです。「ただいま」を聴くと、会えなくても、すでにこの世からいなくなってしまったとしても、“家族”という存在の大きさは変らないのだということを感じます。だからこそ、先ほどの「雨の街」の子どもの姿を想像するといっそう、胸が苦しくなってしまいますが…。

 尚、ハンバート ハンバート『家族行進曲』のタイトルに含まれている“行進曲”とは本来、行進に合わせて演奏される、足並みをそろえるための音楽だそうです。収録曲の中には、様々な家族が登場し、未来に向けて行進をしてゆきますが、足並みは全くバラバラ…。だけど、そんな家族たちの足並みが揃う日が来ますように…というような想いが、このアルバムには込められているのだと思います。

◆9th Album 「家族行進曲」
2017年7月5日発売
初回限定盤(CD+DVD)DDCB-94015 ¥3,400(税別)
通常盤(CDのみ)DDCB-14054 ¥2,700(税別)

<収録曲>
1 雨の街
2 がんばれ兄ちゃん
3 あたたかな手
4 長い影
5 ぼくも空へ
6 おうちに帰りたい
7 真夜中
8 ひかり
9 ただいま
10 台所
11 今夜君が帰ったら
12 横顔しか知らない