「君を思う気持ちを、どうして分かってくれないの?」

 6月13日は【小さな親切運動スタートの日】と呼ばれており、他者に親切の心を持って接し、お互いが思いやり、支え合うことで、より良い社会を築くことを目指そうという運動なんだとか。それはもちろん素敵な信念ですよね。しかし“親切”って、なかなか難しいものだとも思います。自分は良かれと思ってした行動が、相手にとって必ずしもありがたいことだとは限らないのです。たとえば、ドラマ『最高の離婚』には次のようなセリフがありました。

いちいち元気かどうか聞いてくる人が鬱陶しい。
元気がないのが普通の状態の人間もいるんだ。
ちょうどよく元気なく生きてるのに
元気なことが当たり前みたいに聞いてくるな。
(ドラマ『最高の離婚』より)

 この考えを持っていた主人公はかなり重度の捻くれ者でしたが、ここまで極端ではなくても、誰かの言葉が元気の押し売りのように聞こえたり、なんだか恩着せがましくてイライラしてしまったりということ、ありませんか…? きっと「元気?」や「大丈夫?」という言葉にはちょっとした親切心が込められていて、そう声をかけてくれた人には何の悪意もなかったことでしょう。それでも現実ではそんな“親切の空回り”がたびたび生じてしまうんですよね。

くたびれた顔で 電車の中揺られてる人を見た
勇気振り絞って 席をゆずってみた
「大丈夫です」と 怪訝そうに断られたそのあと
きまり悪そうに 一人分空いたまんまのシート
「明日はきっといい日になる」/高橋優

 高橋優の「明日はきっといい日になる」に綴られていたこのフレーズも、日常でよくある“親切の空回り”の一例。彼の小さな勇気は、むしろ相手にとって鬱陶しいものだったのかもしれません。席譲り問題については他にも、ご年配の方に「そんな年寄りじゃない!」と怒られたり、妊婦さんかと思いきや「妊婦じゃありませんけど」とムッとされたり、という話を聞きます。じゃあどうするのが正解なんだ…!とモヤモヤ、やりきれない気持ちになりますよね…。

あれからの君が心配だとか そういうのいらないから
親切とか無理とか そういうのいらないから
好きなことだけを追いかけて生きてね
知らなくていい 知らなくていい
泣いてること知らないで
「ALONE,PLEASE」/中島みゆき

 さらに“親切の空回り”は恋愛面でも。中島みゆき「ALONE,PLEASE」の場合、親切をする側ではなく、される側の心情を綴っております。今の彼女にとって<あれからの君が心配だとか>そういう親切は、逆に心苦しく、申し訳なく感じてしまうものなんです。彼からの親切がツラいのです。とくに恋愛においては、単なる親切が、思わせぶりだったり、ぬか喜びさせてしまったりするからやっかいですよねぇ。また、カップル間では次のようなパターンも多いのではないでしょうか。

「君を思う気持ちを
どうして分かってくれないの?」
君の一番側にいる僕は
昨日たった一言で傷つけた
「風は名前を名乗らずに」/槇原敬之

 この歌の主人公は<君を思う気持ち>ゆえの“親切”が全て相手のためになっていると信じて疑わなかったのでしょう。だからこそ、その言動がわかってもらえないことに不満を抱いているんです。そして同じく、前述したいちいち元気かどうか聞いてくる人も、勇気振り絞って席をゆずってみる人も、「あれからの君が心配だ」と言う人も、その親切を拒絶された時、心のどこかで<どうして分かってくれないの?>と思うはずです。しかし、槇原敬之の「風は名前を名乗らずに」はこう続きます。

誰かの幸せのため
何かしたいと想う気持ちが
分かって欲しいという気持ちに
変わってしまえば無意味になる
「風は名前を名乗らずに」/槇原敬之
 
 このフレーズこそが、本当の“親切”というものを表しているのではないでしょうか。さらに歌は<難しさを知っても 君を幸せにしたい その気持ちは何一つ 変わらないままで>と幕を閉じてゆきます。つまり、大切なことは、親切の結果ではなく、誰かを思いやりたい、優しくしたいという気持ちと行動そのものだけだということなんですね。たとえ相手に拒絶されても、それはそれで仕方がないことなのです。ただ、世の中にはいろんな人がいますが、なるべくなら誰かからの“親切”は、素直に受け取れる自分でありたいとも思いますね…!