雨の日には袖が濡れてしまうから、手を繋がないで歩いた。

きみいなくなれば あめでもひかるまちに
さかなのようにくらすのでしょう
(歌人・大森静佳)

 雨の季節に突入しますので、まずはこんな言葉をご紹介してみました。街灯で輝く雨粒が反射し、キラキラと綺麗なさかなの鱗。大切な誰かがいなくなる寂しさや哀しみと同時に、切ない美しさが伝わってきますね。きっと主人公は“きみ”との思い出がたくさん含まれている“あめでもひかるまち”の中で、魚が呼吸を繰り返すかのように、あの頃の記憶を何度も思い出しながら暮らしてゆくのでしょう…。

あの日もたしか雨が降っていた
「たしか」/吉田山田

 さて、今日のうたコラムでは“さかなのようにくらす”主人公と通ずるものを感じる新曲をご紹介いたします。男性二人組アーティスト“吉田山田”が5月24日にリリースしたニューシングル『街』の通常盤に収録されているカップリング曲「たしか」という楽曲です。冒頭から<あの日もたしか雨が降っていた>というフレーズで幕を開ける歌詞。この曲には、大切な人がいなくなってしまった街で、雨を見つめる主人公の“回想”が描かれております。

ありふれた幸せは時に心まで惑わせて
手を離して初めてそれが尊いものだと知る

雨の日には袖が濡れてしまうから 手を繋がないで歩いた
きっと二人は同じ場所に立って 違う景色を見ていた

突然吹いてきた風 キミの匂い
長い髪が揺れていた 笑ってた
傘も差さずに歩いた春の日
あの日もたしか雨が降っていた
「たしか」/吉田山田

 付き合っているときには、ありふれた幸せの尊さに気がつくことができず、<キミ>の手を離してしまった主人公。別れる少し前のことでしょうか、二人が<手を繋がないで歩いた>理由は、おそらく<雨の日には袖が濡れてしまうから>というものだけではなかったかと思われます。この時点でもう<二人は同じ場所に立って 違う景色を見ていた>のです。手も心も、離れてしまっていたのです。そしてここから歌詞は、さらに遠い過去の回想へ。

泥がはねて裾が汚れてしまっても 手を離さないで歩いた
出逢った頃のあの日の二人が あまりに眩しくて

想い出の忘れ方は知らないけど
それが大切なことはわかってる

突然吹いてきた風 キミの匂い
長い髪が揺れていた 笑ってた?
花は色付きまた巡っていく
あの日もたしか雨が降っていた
「たしか」/吉田山田

 心が結ばれていた<出逢った頃のあの日の二人>は、たとえ<泥がはねて裾が汚れてしまっても 手を離さないで>歩いていました。その眩しい記憶が残っているからこそ一層、変わってしまった二人の姿が切ない…。さらに、先ほど“キミ”は<笑ってた>と言い切っていた言葉が、歌のラストでは<笑ってた?>になっております。「たしか(確実)」だったはずの関係が変わったように、記憶も、確実なものからはっきりとは言い切れない「たしか(多分)」へと薄れているのかもしれませんね。ただ、想い出を完全に忘れてしまえる時が来るまで、主人公は繰り返し記憶をたどりながら、“さかなのように”暮らしていくのではないでしょうか…。

肩を濡らしながら歩いてる 2人は小さな傘1つで
未来予報はまだしばらく 雨が続くみたいだ

何処へたどりつくか分からない
何が待っているのかも知らない
でも固く繋いだこの手が ただ一つの答えだ

ギュッと距離が縮まって そっと離れていく
何回もまた繰り返して その度試して確かめ合って
ずっと変わらないなんて 本当はきっと無理だろう
Rainy Day わかっていたって どれだけ傷つけあってもまだ
あるだけの幸せ数えよう
「RAIN」/吉田山田

 尚、ニューシングル『街』には新曲「RAIN」という楽曲が収録されていて、タイトル通りこちらも“雨”が描かれた歌詞となっております。「たしか」→「RAIN」の順で聴くか、「RAIN」→「たしか」の順で聴くかで、異なる物語が見えてきますので、是非、併せて連続で聴いてみてください。もちろん、タイトル曲「街」も必聴です!

◆12th SINGLE「街」
2017年5月24日発売
初回限定盤 PCCA-04498 ¥1,852(税抜)
通常盤 PCCA-04499 ¥1,204(税抜)