側にいないあなたの幸せなんか願えないのは僕が小さいだけかな?

時間は敵だ
時が経てば傷はいやされる
せっかくつけてもらった
傷なのに。
(江國香織「時間」より引用)

 作家・江國香織さんの詩集『すみれの花の砂糖づけ』に綴られていた一作です。どんなにツラいことがあったとしても、いつかは時が癒してくれるとよく言いますよね。でも、傷が癒されることや、気持ちを切り替えて新しい生活を送ることが、必ずしも正解とは限らない気もしませんか…? きっと愛しい人との思い出なら、痛みを伴う“傷”さえ宝物になることがあるんです。その宝物を抱きしめ続けることで、なんとか生きていける人だっています。そんな想いがこの詩にも込められているのではないでしょうか。

 さて、今日のうたコラムでは、3月29日にリリースされた“LEGO BIG MORL”のニューアルバム『心臓の居場所』をご紹介。今作は、リード曲「あなたがいればいいのに」をはじめ、どこか全体的に“大切な人との別れ”がテーマになっているように感じます。また、その歌の主人公たちはまさに、癒されることよりも「時間は敵だ」というような想いを抱いているようでもあるんです。つまり宝物としての傷を抱いているんです。まずは、小林武史氏プロデュースによる至極のバラードの歌詞をピックアップいたします!

記憶は大切だから捨ててしまおう
四季だって捨ててしまおうか
どの季節にもあなたの匂いがした

これから僕がどうやって生きていくのか
すべては運命ってのに委ねてもいい?

乾かない瞳では目の前すら滲んでいくんだ

側にいないあなたの幸せなんか願えないのは僕が小さいだけかな?
希望もなく光もない
それでもその明日にあなたがいればいいのに
「あなたがいればいいのに」/LEGO BIG MORL

 もし、この歌の主人公が“時間”に頼っているのだとしたら、いつかは<側にいないあなたの幸せ>を願えるようになりたいと思うはずですよね。だけど、彼はそんなことできないと泣いているのです。<僕が小さいだけかな?>というフレーズは反語表現で、“いや僕のせいだけじゃない、あなたとの時間が大きすぎたせいだ”という気持ちが込められているのでしょう。それでも、そんな<希望もなく光もない>毎日を生きてゆけるのは、<明日にあなたがいればいいのに>という強い想いがあるから。喪失感からの力が、むしろ彼を生かしているのではないでしょうか。

時が流れゆく 雨が流してく あなたの匂いも
「あなたがいればいいのに」/LEGO BIG MORL

 しかし、曲は最後の一行、このように幕を閉じます。彼は、結局“時間”がいつかすべてを洗い流してしまうものなのだということもわかっているんですね。そんな現実に対するやるせなさが伝わってくるフレーズです…。だからこそ、自然な“時間”の流れに任せるのではなく、曲の冒頭で<記憶は大切だから捨ててしまおう 四季だって捨ててしまおうか>と、自ら記憶を捨てることで時間に抗うかのような感情が綴られていたようにも感じます。

無くしたピース パズルはもう完成しない

君が足りない すべて消えて
君を忘れ去っても 多分僕はわかるよ 何か足りないということ

君がいない世界に慣れてしまいそうになる
いつか笑って話せる そんな日は一生来ないさ
「melt」/LEGO BIG MORL

一人きりで産まれ落ちて 一人きりで死んでいくんだ
だけど途中であなたと会えた でも向こうへ持っていけないな

僕らの証を ここに突き刺して
あなたの好きな歌を置いていくから たまに口ずさんで
燃えても残るは 素敵なことでしょう
拾うのはあなた 先にいくから 忘れないで
「美しい遺書」/LEGO BIG MORL

 また、アルバムにはこのような楽曲も収録されております。いずれもリード曲と同様、“時間”により喪失感が癒されることを望んでない模様。記憶が色褪せてゆくことを拒んでいるのです。それは<君>や<あなた>という存在のことを、どんな苦しみを伴っても忘れたくはないからでしょう。だから、やはり主人公たちにとって「時間は敵」なのです。最近、大切な人との“別れ”があったという方。是非、ニューアルバム『心臓の居場所』を聴いてみてください。時間に身を任せて忘れようとすることだけが、あなたを救う術ではないかもしれません…!

◆New Album『心臓の居場所』
2017年3月29日発売
初回盤 AZZS-60 ¥3,600(tax in)
通常盤 AZCS-1065 ¥3,000(tax in)