君のピンチも、僕のチャンスと、待ち構えていたよ。

 みなさん、土曜ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』はご覧になっていますか? 原作は藤子・F・不二雄。主演は堤真一さんで、彼の鬼嫁役が小泉今日子さん。堤さん演じる、平凡で冴えない中年サラリーマンの“左江内”氏は、ある日、怪しい老人からむりやり正義の味方・スーパーヒーローを引き継がされてしまいます。鬼嫁さんと思春期の娘(16)と息子(8)を持つ父親でもある彼は、家庭問題と世界平和の狭間で踏んだり蹴ったり…。それでもなんとかみんなのために頑張るおじさんヒーローが、毎週末、わたしたちにも笑いと元気を与えてくれるのです。
 
 また、このドラマを観ていると、英雄で、救世主で、いつもかっこいい“ヒーロー”のイメージもガラリと変わります。どんなヒーローだって実は、日常生活じゃ仕事でうだつが上がらなかったり、妻や恋人の尻に敷かれていたり、ヘタレだったりするかもしれないわけです。そういえば、最近よく歌詞のなかでも<ヒーロー>というワードを見かけるのですが、一言で<ヒーロー>と言っても、それこそ“左江内”氏のようなスーパーマンをはじめ、いろんなヒーローが描かれているようです。

月火水木金 学校へ
本当は渋谷も原宿も分からない
だけど金曜日が終われば大丈夫
週末は私のヒーローに会いに行く

ダメだ もうダメだ 涙も拭けない
そんな自分変えたくて 今日も行く

ちっぽけなことで悩んでる
周りの人は笑うけど
笑いもせず ただ 見せてくれる
走り方 ヒーローが教えてくれる
痛いけど走った 苦しいけど走った
明日が変わるかは 分からないけど
とりあえずまだ 私は折れない
ヒーローに自分重ねて
明日も
「明日も」/SHISHAMO

 現在、ウィークリー2位も記録している人気の歌詞!この曲のヒーロー像は王道ですね。<誰よりも早く立ち上がる>し、ちっぽけな悩みを笑ったりせず<走り方>を教えてくれるカッコイイ存在。ただし、このヒーローには“週末に会いに行ける”のです。だからそれは主人公にとって身近な、親友や恋人や家族…。または好きなアーティストだとも考えられます。会いに行く=ライブ、ということです。いずれにせよ<私>はヒーローを想うパワーで、折れずに踏ん張って生きていくことができている模様。このように尊敬できるヒーローに“救われる側”の心情を描いているのが「明日も」です。
 
世界の終わりみたいな顔して どうしちゃったんだい?
マジメに生きすぎる君だから 絶望とほら 大親友
積み上げてきたものを全部 今すぐにほっぽりだして
夕焼け空の方向へ 旅に出よう

僕は君にはなれないから 苦しみをわかってやれない
そのかわりに君をどこへだって 連れて行くよ
僕は優しいわけじゃないよ 臆病なだけさ
まあ君だけのヒーローであれたら それでじゅうぶんさ
行こうぜ
「ジャーニー」/シナリオアート

 こちらは、シナリオアートが3月8日にリリースしたニューアルバム『Faction World』に収録されている新曲。この曲の場合、ヒーローは自分自身。“救う側”の心情を描いております。そして<君だけのヒーロー>なんですよね。彼は大切な人の<苦しみをわかってやれない>ところもあるし<優しいわけ>でもないし、<臆病>だと吐露しています。でも相手が<世界の終わりみたいな顔>をしていたら救いたいし、どこへだって連れて行きたい、と思うのです。完璧ではないけど、たしかなヒーロー像が見えてきます。さらに、“amazarashi”や“RADWIMPS”の最新曲には次のような歌詞もありました。

食欲がないもんだからさ
別に小銭がない訳じゃないんだよ
君の横顔を見ていると
そういう事を言いたくなるんだよ
もしも明日世界の危機が来て
僕が世界を救う役目だったら
頑張れるのにな かっこいいのにな
なんて空想だ なんて空想だ

そしたら
僕の亡骸 君が抱いて 泣きながら
「やれば出来るんだね」って 呟いて

いつだってヒーロー 笑われたっていいよ
人生は喜劇の 一幕の様なもんだろ
「ここはまかせろ」 とは言ったものの
どうすりゃいいんだろう 断崖のヒーロー
「ヒーロー」/amazarashi

机は窓際 君のとなり
遅刻と罰掃除と居眠り
だってヒーローはそうじゃなくちゃって

キザでキラキラした台詞も
使う予定なんかはないけど
ちゃんと毎晩お風呂でこっそり唱えるよ

未来のヒロインにいつか渡すために
誰一人に内緒で 育てるんだよ

週刊少年ジャンプ的な未来を 夢みていたよ
君のピンチも 僕のチャンスと 待ち構えていたよ

きっとどんでん返し的な未来が僕を待っている
血まみれからの方がさ 勝つ時にはかっこいいだろう
だから今はボロボロの心にくるまって 夢をみる
「週刊少年ジャンプ」/RADWIMPS

 amazarashi「ヒーロー」は<食欲がないもんだからさ 別に小銭がない訳じゃないんだよ>というセリフで、RADWIMPS「週刊少年ジャンプ」は少年の日常生活で、まずちょっと冴えない現実の自分像を描いております。しかしいずれの“僕”にも強い“ヒーロー願望”があることが伝わってきますね。そのために<世界の危機>や<週刊少年ジャンプ的な未来>までも妄想してしまうのです。そして先ほどと同じく<君だけのヒーロー>でありたいのだというところもポイント。

 おそらくこの“ヒーロー願望”はより男性の方が抱きやすいものであり、どこか“恋心”や“愛”に近いものであるような気がします。よく女性は、白馬の王子様が訪れることを夢見ますよね。また、SHISHAMO「明日も」の<私>も救世主に救われる側です。女性は、救われたい、守られたいと思うわけです。逆に男性は、救いたい、守りたいと思う。そして、その男性の気持ちを擬人化すると<ヒーロー>という存在になるのではないでしょうか。

小さい頃に身振り手振りを
真似てみせた
憧れになろうだなんて
大それた気持ちはない
でもヒーローになりたい
ただ一人 君にとっての
つまずいたり 転んだりするようなら
そっと手を差し伸べるよ
「HERO」/Mr.Children

 ミスチルの名曲「HERO」もやはり<ヒーローになりたい ただ一人 君にとっての>と歌っています。<ヒーロー>を歌った曲というと、どこか世界平和や正義といった大それたイメージが湧いてきそうですが、実はこのように、大切なただひとりを守りたい、という真っ直ぐな想いが込められたラブソングが多いんですね!女性のみなさんにとって<ヒーロー>とは、どなたが思い浮かびますか?男性のみなさんにとって<ヒーロー>として守りたいのは、どなたが思い浮かびますか…?