この火が消えてしまったとき、私の創作は死にます。

 2019年10月9日に“黒木渚”が、ファン待望の4年ぶりとなるニューアルバム『檸檬の棘』をリリースしました。さらに、11月5日には新作小説『檸檬の棘』を刊行。2020年には2年ぶりとなる単独公演も決定。目が離せない活動内容となっております。さて、そんな彼女が【今日のうたコラム】のために、今作収録曲にまつわる歌詞エッセイを執筆!
 
 スペシャルな内容を、3週連続でお届けしております。今回は第1弾に続く、第2弾です。綴っていただいたのは小説『檸檬の棘』と新曲「檸檬の棘」のどちらにも通ずる想い。歌詞の世界観と併せて、じっくりとご堪能ください。

~M-4:「檸檬の棘」歌詞エッセイ~

2018年の頭から、私小説を書き始めました。小説家として5冊目の作品として書き始めた『檸檬の棘』はその後の一年間、私を苦しめることとなります。

11歳の私から今の私に至るまでを書きながら「記憶しないことにしたこと」まで掘り起して第14稿まで書きました。あまりに自傷的な作業だったので、途中で自分が何をしたかったのかを見失ったり、現実逃避したりもしました。

そして今年の頭、私は14回書き直した原稿を捨て、一番最初に書いた原稿を提出しました。時間も原稿ももったいないような気がしましたが、きっと14回書かなければ出せなかった答えです。ようやく納得いく答えが出た頃、この小説の中で象徴的に描かれるシーンに音楽を流そうと思いました。

世界が壊れた記念に檸檬の苗を植えた

これは17歳の私が、庭に家庭崩壊の記念樹を植えたというエピソードが元になった一文です。私はそのとき初めて檸檬の木に棘があることを知りました。そしてその棘が素晴らしいと思い、シンパシーのようなものを感じたのです。

あの時は言葉にすることも音楽にすることもできなかったけれど、今の私ならばきちんと作品にすることができます。報われない思春期を過ごしていた17歳の私のために、私は「檸檬の棘」を作りました。

今となって思うのですが、人様に語れる不幸があるのは幸せなことです。それは私が音楽家であり小説家だからかもしれません。怒りをもって創作に向かえることに感謝さえしています。この怒りは私の聖火なのです。絶やさぬように守り続けていかなければいけません。この火が消えてしまったとき、私の創作は死にます。

戦って戦って戦っていなくちゃ 
抗っているからこそ私だって言える
水になって炎になって風になってみたいな
粒子になった体はどこへだってゆける
生み出して生み出して生み出していかなきゃ
吐き出しているからこそ私だって言える
鳥になって獣になって魚になってみたいな
自由になった心はどこへだってゆける

<黒木渚>


◆紹介曲「檸檬の棘
作詞:黒木渚
作曲:黒木渚

◆ニューアルバム『檸檬の棘』
2019年10月9日発売
初回限定盤A ¥3,600+税
初回限定盤B ¥3,600+税
通常盤 ¥2,600+税

<収録曲>
01. ふざけんな世界、ふざけろよ
02. 美しい滅びかた
03. ロックミュージシャンのためのエチュード第0楽章
04. 檸檬の棘
05. Sick
06. 彼岸花
07. 原点怪奇
08. 火の鳥
09. タイガー
10. 解放区への旅