地獄タクシー

穏やかな昼下がり、私はタクシーに乗って空港へと向かっておりました。
レースの手袋に滲んだ赤黒い染みを隠して、重い鞄を抱きしめた。
ねえ、もうじき自由になれる。

神様がいたならきっと嫌われていたでしょう。
窓のそとを見遣ると、豊かな麦畑の黄金がそれはそれは美しい中、
運転手が言ったのです。

「お客さま」
「はい」
「貴女」
「はい」
「貴女、もう地獄に落ちてますよ」
「え」

地獄タクシー タクシー 魂をたくし
地獄タクシー タクシー 釜の底をゆこう

月曜日のニュースは、失踪した女の事件でもちきり。
なんでも女は亭主の首を持って逃げたのだと。
物騒な世の中なもんだ。俺にはまるで無縁の話だが。
踵を返してタクシーに乗りこんだ。

そういえば今朝の記憶がない
どうやってここに来たんだっけ

バックミラーに映らない俺に運転手が言ったのです。

「貴方、もう地獄に落ちてますよ」

いつにでもどこにでもお迎えしましょう
タクシーがあなたを運びます
いつまでもどこまでもお迎えしましょう
ここまで落ちたならもう戻れない

地獄タクシー タクシー 地獄のすがたは
地獄タクシー タクシー 日常にある
だれが気づくというのだろう
地獄タクシー タクシー 地獄行きのタクシー

地獄タクシー タクシー 至極の選択肢
地獄タクシー タクシー (支度しい!) いま行くし!
地獄タクシー タクシー 魂をたくし
地獄タクシー タクシー この釜の底をゆこう
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