“例のCMで親もちょっと安心してると思うんですけど”ーー冗談めかして、「エイリアンズ」のDUBバージョンを披露したあとにそんなMCをしていた彼。インタビューではキリンジ時代の何かちょっと変わった、ひねりや毒のある表現を求められることから距離を置きたかったように話していたけれど、人間がはなから持っているやるせなさや愛おしさを表現し、歌わせたら、やはりこの人の右に出るものはいないのではないだろうかと、ソロでは本格的なツアーとなった今回、そのファイナル公演でその思いを深くした。
アメリカンロックやエバーグリーンなポップスの美しさが際立つ掘込泰行名義の1stアルバム『One』からの選曲を軸にライヴは進行していくのだが、個性的なギタリスト、松江 潤に負けじと堀込も乾いたいいサウンドでギターソロを弾く。かと思えば、馬の骨名義のドープなナンバー「クモと蝶」で、勝手に滲み出てしまう色気が場を覆い尽くす。また、キリンジの『3』から都市生活者の憂鬱なようで自然でもあるようなビビッドな視点が変わらずリアルな「サイレンの歌」で、圧巻のコーラスワークを届ける。本人に意識はないかもしれないが、USインディが持っていたような実験性をさらりと取り入れていたりして、その音楽的なレンジに大いに感銘を受けた。
バンドメンバーもすごい。前述の松江 潤(Gu)、沖山優司(Ba)、伊藤隆博(Key)、北山ゆうこ(Dr)、真城めぐみ(Cho)という完成度の高いポップを鳴らす辣腕揃いだったのだ。そして、何と言っても登場時から黄色い歓声が上がり、演奏が終わるたびに心からの拍手が起こるその様子が、堀込泰行というひとの代替不可能さを雄弁に物語っていた。ライヴを観るまではシーンがどうとか関係なくマイペースに活動のギアを上げていくのだろうと想像していたのだが、オルタナティブを経由した現代のシティポップが浸透した今のシーンにおいて、彼はキーマンとして存在するのではないか?...そんな予感さえ起こる、現在進行形の音楽がそこにはあった。