春と言えば、卒業。この時期、歌ネットではこれまで二度の『卒業ソング特集』を組んできました。ユーザーの皆様からのアンケートや、音楽番組・音楽サイトなどを参考に、卒業ソングとして愛されている楽曲のランキングTOP30を発表。2014年には、1位にレミオロメン「3月9日」、2位にいきものがかり「YELL」、3位に合唱曲「旅立ちの日に」がランクイン。2016年には、1位にGReeeeN「遥か」、2位にEXILE「道」、3位にKiroro「Best Friend」がランクイン。そして2018年、2年ぶりに最新版“卒業ソングランキングTOP30”を制作いたしました!尚、今回のランキングは2017年2月1日~2018年2月1日の歌詞アクセスを集計したもの。近年の歌詞人気がより顕著に表れた結果となっております。それではまず、そのランキングを発表です!
往年の名曲が並びながらも、過去のランキングとはまた少し異なる“新世代”の卒業ソングも上位にランクインしております。

さて、今回の特集ではさらに、この【2018年 卒業ソングランキングTOP30】をもとに歌詞座談会を敢行!ご登場いただいたのは、放牧中のいきものがかりリーダー“水野良樹”さん、元チャットモンチーで、現在は作詞家・作家として活躍されている“高橋久美子”さん、そして元ふぇのたすで、現在は作詞、作曲、編曲、プロデュースなど幅広く活躍されている“ヤマモトショウ”さん。ヤマモトさんは座談会の進行役も務めてくださいました。

では、このお三方が音楽家として、作詞家として、どのように卒業ソングを分析、解釈していったのか…。「あ~!」「なるほど~!」と、思わず唸ってしまう会話が次々と飛び交った座談会の内容を、じっくりとお楽しみください。
“水野良樹×高橋久美子×ヤマモトショウ”による作詞家座談会!

山本 このランキングを見た時、まず僕が驚いたのは、やっぱり3位のSEKAI NO OWARI「RPG」ですね。

高橋 そうなんですよ。卒業ソングって“一人ずつ旅立ってゆく”とか“それぞれ頑張ろう”みたいな歌詞が多いなかで、「RPG」は<怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない>ってフレーズがサビに入っているのが印象的で。でも、たしかに卒業の時って、今まで一緒にみんなで頑張ってきたからこそ、一人じゃないという気持ちを逆に強く感じるのかもしれないなぁと思ったりもした。

水野 なるほどなぁ…。あと多分、僕らの世代ってまだSNSがそんなに発達していなくて、学校を卒業したら結構、物理的にも精神的にも離れたじゃないですか。もう全く音沙汰ない生活みたいな。だけど今の子たちって、学校を離れても、Twitterで「あいつ呟いてるなぁ」とか、Facebookで繋がってるとかあって…。生活空間は違っても、意外と心の距離感は近かったりするのかなぁって。

高橋 あぁ!そこかぁ…!

水野 僕ら世代の卒業って言ったら、もう“今生の別れ感”があったような気がするんですよ(笑)。まさにイルカさんの「なごり雪」はそうだなって思いました。だから僕は卒業ソングって“上京”のイメージにも繋がって。恋人がすごく遠いところに離れていっちゃう場面とかを想像するんだけど、最近はそういう物理的な距離を描いた曲って少ないのかなぁって。だから“電車で別れる”みたいなシーンも、実は共有しにくくなっているのかもしれないですよね。それよりも精神的な別れを描いた方が、聴く人の共感を得られるというか。

高橋 そうねぇ。「RPG」の<「方法」という悪魔にとり憑かれないで 「目標」という大事なものを思い出して>ってフレーズも、すごく精神的な表現だし、昔だったら多分、生まれなかった歌詞やろなぁって思う。だけどそんな今の時代の11位に「なごり雪」が入ってきているのってすごいよね!

水野 ね!なんでなんだろう。ただホントこの歌詞は恐ろしいですよね。<今 春が来て 君はきれいになった 去年よりずっと きれいになった>っていうだけで、どうしてこんなに余白が生まれるのかって。この余白だけでもう…。

高橋 そうそう!余韻が長い長い。やっぱり「なごり雪」は、そういう言葉の美しさがものすごく際立っているからこそ、時を越えて、親世代から若い世代にも受け継がれていくんでしょうねぇ。人って、環境とか時代によってソフトな部分は変わってゆくけど、案外、心のハードな部分は変わらないんじゃないかなって思います。

山本 ちなみにこれ…主人公の二人は今、東京にいるんですよね。僕は最初にこの曲を聴いた時、逆だと思っていました。たとえば「木綿のハンカチーフ」みたいにどちらかが夢を抱いて、東京に行ってしまうという状況をイメージしていたんですよ。でもそうじゃなくて<君>は東京から地元に戻ってしまうのかぁって考えた時に、それもまた魅力なのかなぁって。

水野 そっか、ホントだ!たしかに、東京から戻っていく方が物語を感じるかも。若い二人がお互いに夢を持って東京で暮らし始めたんだけど、彼女の方はその夢を諦めるなり、現実に折り合いをつけるなりの決意をして、地元に帰ってゆく…。だから、彼女を<きれいになった>って言うことは、彼女がもう<ぼく>の知らない人になっている、ってことを表しているのか。ずっと一緒に過ごして来たけど<君>はもう違うフェーズに行っていて、綺麗になったな、違う人になったんだなって、ハッとする…という感情が、この短いフレーズからすごく伝わってくる気がしますね。

高橋 そうだねぇ。きっと二人は東京に出てきてから、1~2年くらいしか一緒にいなかったんじゃないかとかも想像するんだけど、青春期の女性の1年の変化ってすごく大きいんだなぁっていうことも感じる。あと歌詞で“別れます”とはハッキリ言ってないけど、言わないからこそ、多分もう一生会わないであろうことが伝わってきたりして、グッと来るんですよねぇ。

山本 つまり「なごり雪」は“東京”と“どこか”という物理的な距離も、別れによる精神的な距離も、明確に見えてくる歌詞なんですね。そう考えると「RPG」は、距離の概念が希薄になっているとも言えるし、人生をロールプレイングゲームに見立てているから、たとえ物理的な距離が離れていたとしても、そんなに精神的な距離は遠くない、という“新しい世界”を提示しているとも言える…。意外と「RPG」と「なごり雪」は対比できる2曲だったんですね。

山本 あと、「なごり雪」は恋の歌だと思えるけど、「RPG」を含め、多くの卒業ソングってほとんどが“友情”をテーマにしているじゃないですか。お二人は作詞家という視点で考えると、やっぱり卒業=友情ですか?

水野 う~ん、なんか今って、みんなの共通項みたいなものが少ないような気がするんですよね。たとえば尾崎豊さんの「卒業」が支持された頃なら、大人たちへの反発心だったり、何かを我慢して学校に通うことだったりから「やっと解放されたぜ!」って想いが大きな共通の想いだった時代なのかもしれない。「なごり雪」の頃なら、卒業に“距離感”のイメージがついてきた時代なのかもしれない。だけど、現代の子たちが“卒業”っていうワードからどんな気持ちを思い浮かべて、何を連想するのかって、ちょっとわからないところがあって…。だから、卒業=友達、とか、卒業=桜、って入り口から歌が作りやすいというのはあると思いますね。

高橋 たしかに“友情”という共通項しかないっていうのはあるなぁ。でも、卒業って実はそんなに綺麗なものじゃないとも思う。自分の中では何も終わってないし、また次に進まなあかんのか…みたいな“葛藤”が浮き彫りになるのが卒業のような気がしていて。だから自分が歌詞を書くときには、当時の私のリアルな感情も混ぜながら書くことが多いかも。思春期の子たちは、大人の何倍も大きな葛藤を抱えているんじゃないかなぁ。そういう意味だと、5位のアンジェラ・アキさんの「手紙~拝啓十五の君へ~」は、それがしっかりと描かれていると思う。

山本 僕もアンジェラさんの「手紙」では“人間に常にある葛藤”というものが表現されているなぁと感じて、これを合唱曲として作るってすごいと思ったんですよね。本当に“自分自身”だけに向かって歌われているじゃないですか。あとこの歌詞は、1番が15歳の<僕>が未来の自分に向けてメッセージを綴っていて、2番は逆に大人になった<僕>が15歳の頃の自分に返事を書いているという構造になっているんですけど。じゃあこの歌の主人公は今、どこにいるんだろうって。最後の<この手紙読んでいるあなたが 幸せな事を願います>っていうのは、どっちの自分が伝えているメッセージなのかと、ちょっと不思議な感じになりますね。

高橋 最後の<あなた>は両方に向かっている感じがするなぁ。多分、今<僕>は大人で、15歳の自分に手紙を宛てているんだろうと私は思っているんですけど、ただ思い出しているだけじゃなくて、ちょっと15歳の当時の感情に入り込んでいる部分もありますよね。

山本 そうなんですよね!だから単純に昔の自分に「きっといいことあるよ!」みたいなメッセージを歌うものとはまた違って、ちゃんと大人が15歳の地点に立っている目線があるということは、なかなか他の楽曲にはないなぁと思います。

高橋 なんか…今は社会が学校だけではないんだってわかっているけど、当時の自分って、どんなに大人から「学校を卒業したらもっといろいろな道があるよ」とか「もっと楽に生きていいんだよ」とか言われても、学校が社会の全てだったなということを、この曲を聴くとむちゃくちゃ思い出しますね。だから15歳じゃなくて、大人が聴いても涙が出ちゃうんですよ。

水野 そうそう!かつて15歳だった人たちはみんな泣ける。むしろこの曲に共感できない人っているんですかねぇ…。今、尾崎豊さんの「卒業」の方の歌詞も読んでいたんですけど、この歌の場合は「自分も同じ気持ちだった」って人がたくさんいる一方で、「学校生活を真面目に過ごしていたからそんなに共感しなかった」って人もいるんだろうなって。要は、一つの強いカラーがあって、だからこそ熱狂的にこの歌を愛する人と、そうじゃない人が出てくる歌だと思うんです。でもアンジェラさんの「手紙」はそこまで色を押し出していないというか。それぞれが自分なりの“15歳の僕”を上手く当てはめられる。

山本 言われてみると、尾崎豊さんの「卒業」はまさにその時代を生きる等身大の自分の感情や状況を、かなり具体的な描写を使って描いていますよね。でも、アンジェラさんの「手紙」は具体ワードが少なくて、過去と今の二つの視点があるというところでも、ちょっと俯瞰して自分を見ているような感じがします。そういえば、このランキングの上位楽曲の歌詞をいろいろ読んでも思ったんですけど、固有名詞的なものの少なさって、やっぱり共感の大きさに繋がっている気がしますね。


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