2017年1月に【放牧宣言】を発表した、いきものがかり。今回の特集では、放牧中のリーダー“水野良樹”さんにインタビューを敢行!放牧というからには、のんびりされるのかと思いきや、現在は【楽曲提供】というカタチで牧場の外を爆走しております。今年に入ってから、D-LITE(from BIGBANG)、関ジャニ∞、横山だいすけ、一青窈、バカリズムと、山本彩、和田アキ子、井上苑子、石丸幹二、水谷千重子など様々なアーティストの楽曲を提供しているんです(今後もまだまだ忙しくなりそうなんだとか…!)。インタビューではそんな提供曲をいくつかピックアップしながら、水野さんの“今”について、たっぷりお伺いしました。
(取材・文 / 井出美緒)

―― いきものがかりが【放牧】されたのはまだ今年のことなんですよね。昨年9月には、歌ネットで水野さんの著書『いきものがたり』のインタビューをさせていただきました。その頃には、もう決まっていたのでしょうか。

3人とも「ここで一度、活動にひとつ区切りをつけよう」という気持ちは持っていて、今後の活動について話し合っている段階でした。その一連の流れがあったからこその『いきものがたり』だったと思います。でも【放牧】って言葉自体はまだ出ていなかったんですよ。本当に発表直前に、車の中だったかな、吉岡がパッと出したワードで。それを聞いてみんなが「その言葉はいいなぁ」ってなったんです。

―― 水野さんのTwitterには、たまにメンバーのお二人も登場しますが、最近「今のほうが良い意味でほどよく緊張感が抜けて、メンバーどうしで気楽に話してます」とツイートしていらっしゃったのが意外でした。放牧前は緊張感があったのですか?

photo_01です。

いきものがかりでは、常に3人とも全速力で走っているような状態で、自分の持ち場で精一杯なところもあったんですよ。それは悪いことではなくて。だからこそ、お互いに迷惑をかけたくないとか、余計な心配をさせたくないという気持ちもそれぞれ持っていて、そういう意味での緊張感があったと思います。でも、まさに関係性も一旦、放牧というか(笑)。今は結成したばかりの高校生の頃のような気持ちで会えているようなところがあるかもしれないです。気を張らずにすごく普通に話しているんですよね。

―― ちなみに、今3人が集まるとどんなお話をされるんですか?。

なんだろう…山下が山小屋に行き過ぎている話とか(笑)。あいつ今、本当にアウトドアのタガが外れちゃっていて。彼の両親や仲間たちが作った山小屋っていうのがあって、それが次の世代にも受け継がれて、ずっと続いているらしいんですよ。それを知識のある仲間たちと半分建築みたいな感じで大切にしているみたいで。キャンピングカーも買ったそうです。

―― 放牧されて、まさに自由に自然を堪能されているんですね(笑)。

そうそう(笑)。吉岡も今は、友達のアーティストと飲みに行ったり、自分のペースでご飯を楽しめたりできているみたいですね。彼女は歌う人だから、活動中はずっと喉のことを気にして、お酒を飲む機会も少なくなっていたんですよ。まぁなんか、そういう他愛もない話をしているんですけど、今、本当に3人ともいい感じなんですよね。もちろんファンのみなさんには心配させてしまっているところもあるだろうし、関係者の方にもご迷惑をおかけしているんですけど、僕らにとってはすごく貴重な時間になっています。

―― また「放牧をしないとできなかったこと」もあったとのことですが、最近の楽曲提供もそのひとつでしょうか。

多分そうですねぇ。やっぱりグループの活動が第一だったので、なかなか踏み出せなかったところもありました。でも放牧して、一旦“いきものがかり”という屋台の名前がなくなったところで、水野良樹には何ができるのかを試されていると思っていて。そういうときにいろんなアーティストさんから良いチャンスをいただけて、幸せだなと思います。放牧後、体力的にはツラい11ヶ月だったんですけど(笑)、でも精神的には充足感のある毎日を過ごせているような気がします。

では、ここからは放牧後に水野さんが楽曲提供をなさった数々の曲の中から、いくつかをピックアップしてお話をお伺いしていきます。

「青春のすべて」/関ジャニ∞ 
すれちがう若者達に あの頃の僕らを重ねた
やんちゃな夢に はしゃぐばかりで じゃれあうように青春を生きてたね

―― 水野さんの提供曲からはいずれも、それぞれの“アーティスト像”がしっかり伝わってきます。関ジャニ∞の場合は、どのようなグループであることをイメージして歌を作りましたか?

まず10年前、僕らもデビューしたての頃に関ジャニさんの番組で共演させていただいたことがあって。その頃はお互いに20代前半だったんですけど、ちょっと前まで大学生で、テレビなんか出たことないような僕ら3人にとって、彼らはすごく輝いて見えたというか、どう接して良いかわからない感じのスターだったんです。

でも、それから10年経った今『関ジャム 完全燃SHOW』という番組でご一緒させていただいたりしたときには、あの頃の輝きと同時に、ドッシリと構えているような落ち着きも感じました。あと<やんちゃ>さが男らしさに変わっていたり。そのとき、関ジャニさんは様々な経験を積み重ねて、パワーアップされているんだなぁ…って思ったんですよね。そこはある意味、いきものがかりにも重なるところがあって。だから関ジャニさんをイメージしたときには、そういう10年の物語が浮かんできました。そのストーリーが曲から伝わったらいいなぁと想いながら、歌詞を書きましたね。

「あなたはそのままでいてね」と 冬が終わる日に君は言った
はぐれていくその手を僕は握り返せなかった
雪はただ舞い落ちて “それぞれ”がはじまる

―― また、フレーズひとつひとつからメンバーそれぞれの歌声の魅力や味がよくわかりますね。やっぱり「あなたはそのままでいてね」というセリフは錦戸さんだなぁ…とか。

そうそう(笑)。もう本当に歌割りが素晴らしかったですね!ファンの方にとっては「この組み合わせの歌割りは珍しい」とかそういう楽しみ方もあるみたいで、すごく新鮮でした。この歌割りっていうのは僕が考えたわけじゃなくて、関ジャニチームの皆さんが考えてくださって、完成を楽しみにしていたんですけど自分の想像を超えてきました。もちろん音源を聴いたときもそうだったんですけど、とくに完成したMVを送っていただいて、歌っている姿を観たときに、めちゃくちゃ説得力があったんですよ。

彼らは“アイドル”という、本当に多くの方の注目を集める場所でずっと戦い続けている方なので、歌うときの表情とか、身の振り方とか、いきものがかりにはない技術が培われていて、そのパワーを強く感じました。この人たちのパフォーマンスでこの言葉たちが歌われることによって、より歌が広がっていくんだなぁって。それは自分たちの活動だけでは知ることのできなかったことですね。

「これまで」を忘れたいわけじゃない 「これから」を想って生きたいんだ

―― このフレーズはとくに、彼らの意志が投影されているように感じました。以前、水野さんは、私小説っぽくならないよう「いきものがかりは曲の中で自分たちのことをなるべくしゃべらないようにしてきたグループ」だとおっしゃっていましたが、逆に、提供曲のときはそのアーティストの生きざまを描くようにしているのですか?

photo_01です。

あー、それもありますし、提供曲のときには、ファンの方々のことを考えます。たとえば関ジャニさんのファンは、彼らにどういう物語があるのか、僕より全然詳しいし、こういう姿でいてほしいという願いもあったりもしますよね。そこは裏切りたくないし、邪魔したくないんです。だから、いきものがかりで出すときは【読み人知らず】的なものになればという気持ちがありましたけど、提供曲のときは、そのアーティストさんと、そこに結びついているファンのみなさんの関係性ってものを一番に尊重して、みんながハッピーになるものを作る、ということは意識していますね。

―― 先日、他の記事で糸井重里さんとの対談を拝読したのですが、水野さんは【読み人知らず】的な歌になればという気持ちが「このごろ、違うんじゃないかと思いはじめて…」ともおっしゃっていましたね。

いやぁ、なんかもう堂々巡りなんですよ(笑)。その対談で糸井さんから「名前がないものは気持ち悪いよ」って言われて、確かにそうだよなぁとも感じて。でも、書き手の存在感がまったく消えたものと、逆にすごく主観的なものって、矛盾するようだけど、どちらも成立したときにものすごく届く力を持つようなところもあると思うんですよ。もはや禅問答みたいなんですけど(笑)。

たとえば「上を向いて歩こう」って、実は作詞家の永六輔さんの政治的な気持ちであったり、彼の価値観みたいなものが反映されていて、でも今は【読み人知らず】のような存在の歌になっていたりするじゃないですか。そういうものを目指したいなぁとすごく思うんです。だから最近は、自分の気持ちを出した歌詞も書き始めたりしていて、いつか客観と主観の間の歌を自分も生み出せないかなぁって、試行錯誤している感じですかねぇ。

―― いきものがかりが再集結したら、歌詞の特徴も変わってくるかもしれませんね。

たしかにそうかもしれないです。あと多分、吉岡自身もこの放牧期間で考えていることがいろいろあるだろうし、やっぱり言葉を発するのは彼女だから。なんか新しい歌詞の形ができていくような気がしますね。


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