第70回 SHISHAMO「君と夏フェス」
photo_01です。 2014年7月2日発売
 それにしても「SHISHAMO」というのは、親近感バツグンのグループ名だ。ちなみに漢字では柳葉魚と書くけど、彼女たちのバイオグラフィをみたら、アマチュア時代はこの表記だったらしい。もしこれが高級魚系の、例えば「NODOGURO」というグループ名なら、ちょっと遠目に眺めてしまっていたかもしれない。さて、いったい僕は何を書いているのでしょうか。ではさっそく始めましょう。

“多動力”か“フェス力”がモノを言う時代

 昨今の音楽シーンには、有効なふたつの“力(リョク)”がある。ひとつは多動力(cホリエモン)であり、もうひとつは“フェス力”だ。前者の代表格は星野源や米津玄師といった人達であり、音楽だけに限らず表現手段が多彩であり、それらが有機的に結びつき、アーティスト・パワーに繋がっている。

一方、これは説明するまでもないが、ここ数年、もっとも脚光を浴びている音楽の“現場”は夏の野外フェスだ。そこで輝ける人達は強い。そもそもフェスはパフォーマンスの結果が瞬時に顕在化する。どんだけ動員できてどんだけお客さんが盛り上がったのかが一目瞭然だ。SHISHAMOはそこで認められ、動員を増やしていった。

見た目はどこにもいそうな三人なので、例えばフェスで、ファンというわけじゃないけど、通りすがりに“お手並み拝見しようじゃないの”と見始めたら、これが非常に小気味よい演奏、説得力あるボーカルで魅了されました、ということが連続して起こり、おそらく今へと至ったのが彼女達なんだろう(申し訳ないことに、まだ私、ライブ観たことありません)。そして7月には、地元・川崎の等々力陸上競技場でのビッグイベントが控えているそうだ。

「君と夏フェス」。肌の露出とココロの露出

 彼女たちを有名にした楽曲が、まさに夏フェスがテーマの「君と夏フェス」である。この歌は、まだ“浅い”カップルの話だ。女の子のほうは、ライブ会場で熱くなるタイプのようで、でもそれを、男の子は知らない。なにしろ二人は“浅い”のだ。

そして当日。お目当てのロック・スターが登場し、猫を被っている予定だった彼女が本性剥き出しになる。ちなみにそのスターを、[真夏のステージ]なのに[スーツを着た]と描写してる。“これ、実際にはどのアーティストのこと?”みたいな詮索も楽しいが、むしろここでは、この女の子の憧れを映す“鏡”として受け取ろう。彼女は男性のダンディズムのようなものへ憧れを持っている。しかし現在、“フェス・デート”をしている相手は真逆のタイプと思われる。

[止まらないのは]以降の[君への気持ち?]のところは巧妙だ。この部分の“君”は、ロック・スターを指すのか男の子を指すのか曖昧なのだ。でも、あえてそんな効果を狙っていると受け取れる。いずれにしても、ロック・スターの演奏は続き、彼女はさらに音楽と同化して、いよいよ“トランス状態”へと突入していく。

夏の太陽に[焼け焦げそう]になり、辺りが[スローモーションになる]。これ、分かる。ホントに気が遠くなりそうだったら周囲に申告し、救護テントへ直行すべきだが、直射日光浴びつつの夏フェスでは、一瞬ちょっとだけ意識がふわふわした感じになり、それが快感なのである(くれぐれも、こまめな水分補給は忘れずに…)。

さらにさらに、詞を書いたボーカル&ギターの宮崎朝子自身が体験してないとムリじゃないかと思える描写は次の部分だ。[他人の汗もどうでもよくて]。もうここまでくると、この女の子は完全に入り込んでいるわけであり、一緒に来た男の子は、取り残されてるー、と、思いきや…。でもこの歌、ハッピーエンドなんだ。

本性を剥き出しにした女の子は[わたしやっちゃった]と後悔する。ここで再度思い出して欲しいのは、[君への気持ち?]の部分だ。彼女はここで、私は男の子よりもロック・スターの“君”のほうを結果的に選んでしまったんだなぁと判断し、自己憐憫に浸る。

自業自得である。好きになって付き合い始めた男の子が居るのに、憧れのスターを観に来たこと自体、精神的な“二股”状態と言える。でもでもでも、男の子は、こんな粋なことを言う。[新しい君が見れた」、と…。この歌を支持する多くの方々にとって、胸がきゅうきゅうする最大のポイントがここだ。

最後の最後、オチもつく。夏フェスで[止まらない]のは汗だけど、本当に止まらないのは[二人の恋]だという、そんな歌詞の締め方をしている。

ソングライター宮崎朝子は只者ではない

 他にもSHISHAMOには、高品質な楽曲がたくさんある。もちろん紅白出場を果たした「明日も」が有名だが、この歌の場合、聴く人達が感情移入しやすいよう、歌詞の具体的な表現は控えめにしてる。これ、実はなかなか、難しいことだろう。ソングライターとしての宮崎朝子は、そのあたりが“分かりかけている”ヒトなのだろう。

それは新作の「水色の日々」にも言える。ジャンル的には“卒業ソング”だけど、今日が最後であるから芽生える、それまでとは違う感覚や価値観を、そこに絞り、丹念に描写する。アレコレ盛り込みすぎず、徹しているからこそ伝わるものがある。

人気曲の「行きたくない」は、不登校という社会問題を扱っている。「音楽室は秘密基地」も含め、これらはティーンにとって切実な、学校での“居場所”に関する歌である。後者はキヨシローが作った「僕の好きな先生」にも似たシチュエーションに思われる。

考えさせられる部分もある歌だが、深刻になり過ぎるのもよくない。「行きたくない」の主人公。隣りのコが英語のプリント忘れているの知って、[貸したくて]という意志は持ち合わせているのだ。あと一歩のところまで来ている。

よく“居場所”“居場所”と言うけど、いったい何m²くらいが基準だろうか。片足を置くスペースだけでもいいから、まずは小さなものでも見つけるのが大事だろう。そんなことも考えさせてくれる歌だ。

もう1曲いいでしょうか? 「バンドマン」。好きなバンドマンが出来て、追っかける女の子の歌なんだけど、みんなで応援してます、という姿勢ではなく、あわよくば、彼女の座を射止めようと奮闘する女の子なのである。とはいえ、秘策はない。ひたすらライブに通い詰め、力の限り声援を送ることだけなのだ。

自分のなかでは既に、ほかのファンとの区別化は完了してる。彼女はそのバンドマンの[奥の奥][ホントのトコ]まで分かってる。あとは相手が、自分を区別化してくれるかどうかなのだ。もどかしい。ちょっと切ない。 数ヶ月後、ライブハウスで彼女面で地蔵っぽく冷静に見つめる、そんな主人公の姿は見られるのだろうか? けっこう物販とかさばくのが天才的に上手くて、そのままマネージャーに就任し、このバンドは大成していたりして…。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年。でも新たな才能は、今日も産声をあげます。そんな彼らと巡り会えれば、己の感性も更新され続けるのです。
4月1日開局の動画配信サービス「Paravi(パラビ)」のオリジナル番組として、「もっと観たくなる森高千里」に出演させていただきました。これは森高さんに『ザ・森高』『ROCK ALIVE』『Lucky7』という、三つのツア-(および昨年行われた完全再現ライブ)についてお訊ねする番組です。実際に再現ライブの映像を彼女に観ていただきつつお話し頂くという、非常に興味深い企画であり、こういう形でのインタビュ-はぼくも初めてでした。ご興味ある方は、ぜひご覧下さいませ。