第31回 米米CLUB「君がいるだけで」
photo_01です。 1992年5月4日発売
 さて今回は、米米CLUBの「君がいるだけで」を取り上げよう。もうタイトルを聞いただけで、“♪たとえば〜 君がいるだ〜けで”という歌い出しが想い浮かぶ人も大勢いることだろう。改めて聞いてみても、本当によく出来た作品で、歌詞もメロディもアレンジも、完璧といっていい。この歌い出しの部分はサビにあたり、コーラスの終りに再度登場する時は手拍子の合いの手入れたくなるほど弾むリズムに包まれてる。そこのところが特に気持ちいい。ちなみに、この曲がヒットしたのは1992年。当時の音楽業界は、やたらシングルCDが売れていた。「君がいるだけで」は、なんと276万枚のセールスを記録。そしてヒット曲は人気ドラマの主題歌から、というのも当時の定番であり、『素顔のままで』とのタイアップで火がついた。ドラマのほうも最終回の視聴率が30パーセントを越える人気ぶりだった。

マニアックな印象だった米米CLUBが手にした大衆性

 やがて「君がいるだけで」は、結婚式ソングとしての地位も確立していく。いろいろあったけど、真の愛情が目の前にあることに気がついた…。強引に要約すれば、そんな歌でもあるから、まさにピッタリだ。ただ、元を辿ればこの歌は、ボーカルのカールスモーキー石井の妹で米米CLUBのダンサーチーム「シュークリームシュ」(米国のガールズ・ソウル・グループ「シュープリームス」をもじった名前)のMINAKOと、サックス担当のフラッシュ金子が結婚することになり、それを祝って作られた、というのだ。ただし、巷間伝わるこの話は様々に解釈できるだろう。
二人の結婚を寿(ことほ)ぐ意味で作ったものなのなら、当人達にだけ分かる逸話がそっと歌詞のなかに込められているかもしれない。そこまで具体的ではないけど、当時、彼らの心のなかにおめでたい気分があって、それがメンバーの総意として曲に反映された、ということも考えられる(曲の作詞・作曲クレジットはグループ名の米米CLUBになっている)。で、僕はなんとなく、後者な気がする。恋愛の歌のようで、「君がいるだけで」は友情の歌にも思えなくもない(そもそも主題歌となった『素顔のままで』というドラマは、恋愛のエピソードも絡んだ内容だが、軸となるのは育ちも性格も違う二人の女性の絆、であった)。
いずれにしろ、デビュー当時から発表されてきた作品にはマニアックな傾向もあった彼らが、まずJALとのタイアップを意識して制作した「浪漫飛行」(1990年)によって「ヒットする歌とはどういうものなのか」という感覚を掴み、さらにメンバー間の“結婚”という、世間一般の日常の一大イベントと向き合うことで、さらなる大衆性への扉を開けたということだろう。

彼らにとって、正攻法こそが最大の洒落だったのかも

 先ほど、この歌の作詞・作曲クレジットはグループ名の米米CLUBであると書いた。これはデビュー以来の彼らの基本方針だったけど、メンバーが等分にその作業を担ったとは考えにくい。数人で曲を書くというのは非常に面倒くさい。ただ、言葉に関してはキーワード的なものをみんなで持ち寄り、そこからつなげていくのなら比較的スムースに進みそうだ。
では単語やフレーズごとに見ていこう。この歌の最大のキーワードは、歌詞中に何度もでてくる“True Heart”だ。辞書を引くと、「赤心」という言葉が載っている。つまり、嘘偽りの一切ない心。真心。「君がいるだけで」が洋学的な洗練した雰囲気をたたえているのは、この言葉が活きているからだろう。
次に注目したいのは、“心が強くなれること”。前後の脈絡からいって、この“こと”という語尾は、唐突とまでは言わないものの実にユニークだ。もしかしたら…、だが、この歌が発表される前年、大事MANブラザーズバンドの「それが大事」という歌が日本中で流れていた。歌詞のなかで“こと”という語尾を連発することで有名な歌だ。もしかしたら…、知らず知らずにその文法が、ここに影響として現われているのかもしれない。
次に注目は、“強がりの汽車”とか“裏切りの鏡”といった、なんとも歌詞らしい比喩表現だ。そもそも諧謔(かいぎゃく)精神というか、洒落のめすことも大得意な米米CLUBにしては、なんともベタというか正攻法。でも、これとて彼らにとってはその範疇だったのかもしれない。「歌謡曲とかニューミュージックに、いかにもありそうな表現を使ってみちゃったりなんかして…」、というわけ。つまり正攻法こそが洒落だった。でも世間は、もちろんそれを額面通りというか、歌詞の字面通りに受取った、なんてことまで書くと、邪推が過ぎるだろうか。
最後にカールスモーキー石井のことを。「君がいるだけで」は、やはり彼の歌声なくしては成り立たないだろう。自分に酔ってるようでギリギリのところで冷静さを保つ感覚とでもいうか、そのあたりが何度聴いてもニクいし、豊かで柔らかな声質も最高だ。まさに名調子と呼べる。何年か前、嬬恋で開かれたap bank fesでこの歌を聴いた時も、つくづくそう思ったものだった。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

文章を書くことと歌が大好きだったこともあって、音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年。
でも新しい才能と巡り会えば、己の感性は日々、更新され続けるのです。
先日、友人数人と話していたら、予定はスマホに入れてる派と手帳に手書き派とに分かれた
のですが、僕自身は後者です。スケジュールを相手に訊かれたら瞬時に返答したいし、ぱっ
と開ける手帳のほうが、なんか仕事にリズムも生まれるような気がするのです。なんて偉そ
うなことをいいつつも、2015年用を買い忘れ、そのまま新年に突入しました。