第19回 レミオロメン「粉雪」
photo_01です。 2005年11月16日発売
 "♪こなぁ〜ゆきぃ〜"。あ、ついつい冒頭から歌ってしまった。でも、そもそもこの曲ってそういうところがある。サビの印象度ということではピカイチなのだ。世の男子は「粉雪」を歌いこなせるかどうかをカラオケ名人になれるかどうかの試金石のようにも捉えている。しかし…。たとえ音程的にこなすことが出来たとしても、決してご本家、このバンドのボーカルの藤巻のような高く逞しいロングトーンで歌い切ることは至難の業だろう。藤巻はこの曲の作品作りに関して、ふと浮かんだAメロの部分から始め、やがて曲のなかで「叫びたくなった」とインタビューで答えていた記憶がある。でも、叫ぶといっても伝わる叫びとそうでないものがある。なぜこの曲は、これほどまでに伝わるのか?それが今回のテーマでもある。

 その前にまず、レミオロメンというバンドのことを。実はこの人達、デビューしていきなり凄かった。メジャーのファースト・アルバム『朝顔』は、僕が聴いた新人バンドのデビュー作のトップ3に入るくらいの出来映えだった。日本人の根っこの部分にある情感を伝える歌詞の世界観と、よく締まったリズム表現による疾走感が見事に同居していた。このバンドに加入する前はスタジオで仕事していたベースの前田の音のキレなどは、まさに新人離れしたものだった。
それは努力によって生まれた。アマチュアの頃の彼らは、地元山梨の神社の一角を安く借り受け、簡単な防音を施し、約一年間、来る日も来る日も楽曲作り、およびバンドのアンサンブルを磨き上げていたのだ。これは非常に有名なエピソードでもあるが、地元だからこそ実現したことだろう。もし東京に出てきてバイトでもしながらの生活なら、そのつどスタジオを借りないといけなかったし、お金もそうは続かない。そうして煮詰めた音楽性を、上京して下北のライヴハウスで腕試しする日々…。この時期は、インプットとアウトプットのバランスが、まさに理想的だったのだ。
並の新人じゃなかった彼らが出会ったのが、並のプロデューサーではない小林武史だった。小林はレミオロメンの三人の第一印象を「甲斐の国・山梨からやってきた野武士のようだった」と僕に語ったことがあった。そして当初は、そのクセは残すことが彼のプロデュースの方針となったわけだが、徐々に音楽の幅も広げていく。
そんな中、彼らを一躍トップ・バンドへと押し上げたのが「粉雪」だ。ドラマ『1リットルの涙』挿入歌に起用されたが、もともとドラマを意識して書かれたものではなく、この曲の存在を知ったドラマ制作サイドが、裏表のないところで曲に惚れて挿入歌に起用されることとなったのだ。そして周囲の予想以上の大反響となる。仕組まれたブレイクは真のブレイクとは呼べないが、これはまさに、正真正銘のブレイクだった。もちろん喜ぶべき状況となったが、「もっともっと自分達には聞いて欲しい楽曲がたくさんあるんだ」という想いが、その後のこのバンドのモチベーションにもなっていく。

サビで別のスイッチが入り、印象的な「叫び」が生まれる

 「粉雪」という楽曲はよく整理された構造になっていて、いわゆるAメロ→Bメロ→サビを繰り返し、最後にサビのみ二度繰り返され印象的に終わっていく。この説明だけなら何の変哲もない曲に思えるが、歌詞の構成も鑑みて相対的にみてみると、「粉雪」ならではの特徴というのがもちろんある。この楽曲のサビが非常に印象的なのは、この曲を頭から聴いていて、一際ここで音程が上がるからだ。唐突、とまでは書かないが、明らかに別のスイッチがここで入る。ここで思い出して欲しいのが、藤巻は「叫ぶ」という要素もこの歌に込めたという事実だ。叫びというのは、衝動的かつ突発的な行動であればこそリアリティを得る。サビで別のスイッチが入る構造なのは、このあたりの意図があってのことだったのではなかろうか。
ただ、いくら自分がアイデアを思いついても、ボーカリストである自分がそれに応えられなければ成立しない。自ら曲を書いて歌うというのはそういうことだ。いや、藤巻は歌詞はまだなくてもラララとか声を出しながら曲を作るだろうから、あの音域の声が出ないなら、そもそもアイデアすら思い浮かばなかっただろう。完成した「粉雪」を後から音楽理論的に解析したテキストは幾つも存在するが、そもそもの真実は、歌作りの渦中にあって、藤巻が見事にこんなふうに"叫ぶ"ことが出来た瞬間こそあるのだろう。

"粉雪"で始まり"粉雪"で締める歌詞

 さらにここで、歌詞の構成上において、「粉雪」が他と違う部分を指摘する。それはAメロの歌い出しが"粉雪"という言葉で、さらにサビの頭もおなじ"粉雪"という言葉であることだ。こういう楽曲は珍しい。この、執拗とも思える"粉雪攻撃"(?)は、どんな効果をもたらすのだろう。それは、まず冒頭で主人公を取り巻く環境(=天候)として示された"粉雪"の舞う情景が、最後のサビでは己の心情を映し出す"鏡"のような存在にまで進展していることなのだ。これは偶然か、作者の藤巻の計算なのか。おそらく偶然ではないだろうか。
「一億人から君を見つけた」や「君の心に耳を押し当て」といった表現も非常に印象的である。でも、一番この歌で特筆すべきは、"粉雪"という柔らかな響きの言葉を、サビで思いっきり強く叫んでみせるアンビバレンスにある。そのことで聴き手に伝わるのは、届きそうで届かぬ想い、なのだ。そのことを早い段階から指摘していたのは(僕が耳にした限りでは)Mr.Childrenの桜井だったと思うが、同じソング・ライターゆえに如実に感じたことだったのではなかろうか。

いま現在、レミオロメンの三人はそれぞれ別々の活動を行っていて、バンド活動はお休み中だ。再びステージに立ったなら、おのおのが持ち帰った新たなアイデアが、また別の形で開花することだろう。その日を待とう。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

1957年東京は目黒、柿ノ木坂に生まれる。そもそも文章を書くことが好きだったのと、
歌が大好きだったので、このふたつの“合わせ技”で「音楽評論家」なる職業に就いて早
ウン十年。2013年の僕自身の音楽シーンにおけるトップ・ニュースはサザンオールス
ターズの復活でした。日産スタジアム、茅ヶ崎、宮城と、彼らを追いかけました。そし
て2014年。まだ発表できないのですが、いろいろなプロジェクトが控えてます。期待
の新人も続々デビューしてますね。そのなかの一組、「ゲスの極み乙女。」には大注目。
名前はスゴいですけど、機会あったらぜひ聴いてみてください!